HOME
入会
Instagram
Facebook
Youtube

2025年10月10日から13日にかけて、学生会員ら10名で北海道釧路市にて地域研修を実施した。目的は、少子高齢化と人口減少が進む一方で外国人労働者の比率が高まっている釧路の現状を通じ、将来の日本の地方都市に共通して起こりうる「2040年の労働のあり方」を考えることである。滞在中、市役所、大学生、アイヌ、技能実習生など多岐にわたる方々から話を伺った。特に、技能実習制度から「育成就労制度」への移行期において、雇用側と労働者側双方の生活実態や考えを直接インタビューできたことは極めて貴重であった。都会では見ることのできない地方都市のリアルと豊かな自然に触れ、産業と労働の未来について深く洞察する有意義な4日間となった。

【研修スケジュール】
10月10日(金) 釧路市役所訪問、鶴間市長への表敬訪問
10月11日(土) 釧路湿原観光、市内大学生とのディスカッション
10月12日(日) 阿寒湖観光、アイヌの方へのインタビュー
10月13日(月) 釧路東水冷凍(株)訪問、釧路湿原野生生物保護センター・丹頂鶴自然公園見学

釧路市役所にて、漁業と観光業を軸に過疎化と外国人就労の課題について意見交換を行った。水産加工業では日本人の確保が困難で外国人材が不可欠な労働力となっている一方、行政の役割はマッチングや支援に留まり、実務は企業に委ねられている実態が明らかになった。意外にも、ラムサール条約登録以来の国際的な背景から、地域住民との顕著な摩擦は生じていないという。一方、若年層の都市流出は深刻で、利便性や職の選択肢の少なさが背景にある。行政はUIJターンの促進や、マリモ育成を通じた愛着形成に取り組むが、人口減少による税収減が広報活動を阻む「負の連鎖」も浮き彫りとなった。地方行政が直面する構造的課題を再認識する機会となった。

鶴間市長へのインタビューでは、外国人就労者の受け入れが単なる人手不足対策ではなく、インフラ維持や人口減少対策といった長期的視点での重要政策であることが語られた。国際的背景により市民の理解は一定程度あるものの、日本語教育や文化交流の場づくりは依然として課題である。また、納税者減少による市の厳しい財政状況が、外国人受け入れに伴う財政負担への懸念にも繋がっており、国による財政支援の必要性が強調された。地方都市が存続するためには、外国人だけでなく若年層にとっても魅力的な政策立案が不可欠である。若者の一人として地方行政の将来を自分事として捉え、何ができるかを考え行動することの重要性を痛感した。

釧路湿原国立公園では、温根内ビジターセンターでの学びと木道の散策を通じ、タンチョウ等の生物多様性と湿原特有の地形を観察した。国が国立公園として直接管理している点から、この自然環境が地域を超えた重要資産であると実感した。 展望テラスからの雄大な景色に感銘を受ける一方で、経済活動と環境保護の葛藤を象徴するメガソーラー建設問題についても議論を深めた。再生可能エネルギーの導入と森林破壊による温暖化への影響という、相反する側面のバランスをどう取るべきかという問いを身近に感じた。具体的な地域を舞台に、保護と活用のあり方を多角的に検討する機会となり、単なる観光地の枠を超えた深い学びを得ることができた。

釧路公立大の学生と「2040年にテクノロジーを使いこなすための教育」をテーマに討論した。将来の主力世代として、AI活用に必要な言語化能力や批判的思考力、社会課題への理解をいかに育むかが焦点となった。A班は、技術理解以上に人間基礎力としてのコミュニケーションを重視し、世代間交流やフィードバックの機会増加を提案した。B班は、早期の情報教育と体験学習を組み合わせ、自ら課題を見出しテクノロジーで解決する一連の流れの教育化を主張した 。全体討論では、指導人材の育成という課題や、多様な価値観に触れる重要性が浮き彫りとなった。現地の学生との対話を通じ、テクノロジーそのものの習得以上に、それを運用する人間の素養を磨く教育の在り方を再考できた。

阿寒湖では、豊かな自然資源を活かした観光業の戦略について伺った。かつての基幹産業である水産・石炭・製紙業が衰退する中、市は観光を次代の柱に据えている。 国内旅行者の減少と人口減少を見据え、現在は欧米豪を中心とした「アドベンチャー・トラベル」の推進と、訪日外国人客の積極的な誘致に注力している。国から「観光立国ショーケース」等のモデルケースに指定される中、英語ガイドの育成などが急務となっている。インバウンド需要の取り込みが、単なる集客施策ではなく、地域の存続をかけた切実な取り組みであることを学んだ。地域の特徴を活かした独自のブランディングが、地方都市の新たな経済基盤を構築する鍵であることを実感した。

阿寒アイヌクラフトセンターにて、アイヌの若者から文化継承とアイヌとしての生き方についてお話を伺った。冒頭で語られた「同化された」という言葉の重みに、歴史の現実に直面する衝撃を受けた。文化継承においては、血縁と文化のどちらを重視すべきかという複雑な葛藤がある一方、国や行政による教育強化を求める声が共通していた。特筆すべきは、伝統芸能の継承者が祭事の際に休暇を取得できる「文化有休」という具体的な制度提案である。アイヌ文化を肯定的に捉え、次世代へ繋ごうとする前向きな姿勢に感銘を受けた。この交流を通じ、多様な文化的背景を持つ人々が共生し、その誇りを守りながら働ける社会の在り方について深く考えさせられた。

釧路東水冷凍にて鮭加工の現場見学と実習生へのインタビューを行った 。贈答用の秋鮭加工は非常に複雑で、完全な機械化が難しく熟練の手作業に依存している実態を知った。同社では日本人の働き手不足を補うため11名の外国人が活躍しており、失踪者ゼロという実績は、手厚い生活・教育体制の証である。しかし、制度が「育成就労」に移行し、1年での転籍が可能になることに対し、企業側は「技術教育をしてもすぐに流出してしまう」という切実な懸念を抱いている。制度改正が現場に与える影響は立場によって異なり、一方的な評価はできないことを痛感した。外国人材が単なる労働力ではなく、技術を継承し地域産業を支えるパートナーとして不可欠な存在であることを再認識した。

釧路湿原野生生物保護センターと丹頂鶴自然公園を訪問し、希少動物の保護と生態系維持の取り組みを学んだ。明治期に絶滅寸前だったタンチョウが、地元の粘り強い保護活動により数を回復させた歴史は、地域の主体性が生態系再生の鍵であることを示している。 保護活動は単なる動物愛護に留まらず、地域の文化や誇りの象徴となっており、その価値を次世代に繋ぐことが持続可能な地域づくりの本質であると感じた。広大な湿原で見せた鶴の姿は、自然保護が地域のアイデンティティと密接に結びついていることを象徴していた。釧路の事例は、環境保護と地域振興を両立させるための優れたモデルケースであり、自然を大切にすることが地域の持続可能性に直結することを再認識した。

4日間の研修を通じ、釧路という現場で「生の声を聴く」ことの計り知れない価値を実感した。日本が好き、仕事が好きだと熱心に働く実習生の姿は、外国人労働者が日本の未来を支える不可欠な存在になることへの希望を感じさせた 。一方で、討論した現地の大学生が全員他県出身であり、若者の都市流出という構造的な課題も肌で感じることができた。外国人受け入れや過疎化といった難題に対し、雇用側、労働者側、行政、そして教育の各視点から多角的にアプローチした経験は、将来の日本のあり方を考える上での羅針盤となった。最後に、研修を支えてくださった皆様への感謝を申し上げたい 。