2019年3月「世界の自動車業界を変革する新技術---"CASE"の現状と今後について---」
中津留隆氏:
東京大学法学部を卒業後、日系大手自動車会社に入社。約6年ほど勤務された後、現在は外資系コンサルティング会社に勤務されています。
「将来、車を運転したいですか?」という中津留氏の問いかけから始まった今回のアラムナイトークは、いつもの講義形式とは異なり、食事をしながら事前に配布された資料に基づいて質疑応答を行うという、カジュアルな形で進められました。 話題は当然のことながら多岐にわたり、日本や世界の自動車業界をとりまく昨今の状況から、電気自動車や自動運転の今後の展望、さらには地方活性化に対して自動車が貢献できる可能性まで、様々なトピックに関して貴重なご意見を伺うことが出来ました。 事前に頂いた資料では、今まさに「100年に一度の大変革」、ドラスティックな変革の真っ只中にある自動車業界では、CASEと呼ばれる、“CONNECTED”、“AUTONOMOUS”、“SHARED & SERVICES”、“ELECTRIC”という4つのトレンドが重要視されていることが示唆されていました。 ここでは、そのような前提を踏まえ、当日交わされた数多くの議論の中でも特に印象的だったものを示したいと思います。
いささか強引にまとめてしまうなら、それは「本当に自動運転、電気自動車の需要は伸びるのか?」という議論でした。 長期的に見れば、いずれは例えばアフリカ等の新興国の自動車の需要が伸びるはずであり、そのような地域ではこれらの性能は果たして必要とされているのか、という学生からの質問に対し、中津留氏の回答は、確かに30~50年といった「長期的」スパンで考えれば、新興国の需要は間違いなく伸びるはずである、しかしながら、現在の技術革新のスピードを鑑みれば、ある意味それは「超長期的」な視点であり、今後5~10年の間に実用化に向けて着実に前進していくであろう、これらの技術に関しては、自動車業界はやはりアメリカ、EU、中国といった現在の主要市場の動向に注目して、対応していくことが必要だろうとおっしゃいました。
このような回答は、大まかで性急な判断を下すことに警鐘を鳴らし、ひとつひとつの個別具体的な事実に基づいて判断を行うべきという氏の強い信念から、導き出されたものだと感じられました。
最後に中津留氏から、アメリカで年間自動車販売台数のトップに君臨し続けているのは、燃費の良い高性能な車ではなく、典型的な「アメリカ車」である大型車であるというお話がありました。 このような事実は、車には性能だけでは語れない、その国・地域の文化に根ざした、人々の生活とより深いレベル関連する部分が、紛れもなく存在することを示唆しています。 そこに自動車の真の魅力があると前置いたうえで、「いつかは再び自動車業界に戻ることも考えている」と語る中津留氏の、社会人としての真摯な姿勢に、学生一同深く感銘を受けたことは言うまでもありません。
最後になりますが、ご多忙の中お時間を割いて御足労いただいた中津留氏に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。
(東京大学文学部 瀬戸多加志)
2019年1月「匿名か実名か、記者たちのジレンマ」
1月アラムナイトーク開催。今回はKIPのアラムナイメンバーでNHK報道局社会部記者として活躍されている松尾恵輔氏をゲストにお招きし、匿名・実名報道の是非についてお話を伺いました。 匿名報道か実名報道かは、それが「災害」か「事件」か、また被害者の「年齢」など様々な要素を考慮し決定されます。 しかし、それが本当に当事者へ「配慮」になっているかどうかは、判断し難いところであるとお話して下さいました。
2018年11月「ロックフェラー5代目当主から学んだこと〜同族企業こそが日本(地方)を救う〜」
相山豊氏:
山梨県出身。慶應義塾大学卒業後、経団連に就職。経団連から派遣で、エール大学経済学大学院(修士号取得)とハーバード大学政治学大学院(修士号取得)に留学。2002年秋にハーバード大学研究員(金融専攻)を経験し、その後経団連を退職。2003年1月に自身の会社を設立し、現在に至る。
フォーラム前半のスピーカーによる講演では、まず始めに同族企業に対する日本と欧米のイメージの違いとその理由についてお話しいただきました。日本では、同族企業と聞くと「古い経営形態で業績も悪い」などと何かとマイナスイメージを持たれることが多いですが、欧米ではむしろ同族企業でないと顧客の信頼を得られない、というように同族企業に対して正反対の価値観があります。この理由について相山氏は、日本人は同族企業に対して何かしらの嫉妬心を抱いている一方、欧米人はもちろん嫉妬心もあるが自分達自身もある程度は裕福になれると思っている点に違いがあるのではないかと指摘されていました。
次に、相山氏は米国の研究結果をもとに同族企業の強さについて触れられました。同族企業にネガティヴなイメージのある日本であっても、日本を代表する優良企業には、トヨタやブリヂストン、サントリーなど同族経営から出発した企業が多く、全企業の97%、上場企業の3割以上が同族企業だと言われています。同族企業の強みについて相山氏は①長期的視野に基づく経営、②トップの強いリーダーシップによる迅速な意思決定、③経営上の責任が明確、④創業者の経営理念の継承が容易の4点を指摘されました。
最後に、相山氏は日本の地方と同族企業についてお話しいただきました。日本の地方にある中小企業のほぼ100%が同族企業であり、日本で同族企業が胸を張ってビジネスが出来ない状況が続くのであれば、後継者不足が深刻化している地方に追い討ちをかけることになり得るというお話をいただきました。
フォーラムの後半では、講演を踏まえた上で「仮に自分が自動車業界に就職するとしたら、同族企業のトヨタと非同族企業の日産のいずれを選ぶか?」というテーマで学生同士のディスカッションを行いました。学生達は、再度同族企業と非同族企業の長所と短所を検討した上で、自身のキャリアプランと重ね合わせた際にどちらの企業に行きたいかについて活発な議論を交わしました。
今回は、テーマが「同族企業」ということで、普段はあまり意識しない視点に関する講演であり、その分新たな発見と驚きを多く感じたフォーラムでした。今回学んだことを社会を見る際の1つの尺度として、そして就職先などを考える際の1つの基準として生かしていきたいと思いました。最後に、お忙しいなか私たち学生のためにお時間を割いてくださった相山氏に心よりお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
(慶應義塾大学大学商学部 渡邉 舜也)
2018年11月「世界遺産の現状と課題」
11月フォーラム開催。今回は、世界遺産の現状と課題について講師の方よりお話を頂き、ディスカッションを行いました。
2018年10月「日本の社会保障と自分の関わり方」
深澤良彦氏:
千代田火災海上保険株式会社に入社後、ロンドンで勤務し、その後あいおい損害保険株式会社にて国際部アジア戦略室長、バンコクCEO、あいおい同和損害保険株式会社ヨーロッパにて副CEOを経るなど、計30年ほど海外で社会保障分野にてご活躍。MS&AD基礎研究所株式会社代表取締役社長を経て、現職に至ります。
最初に、深澤氏は日本での社会保障制度と私たちの関係についてお話くださいました。日本では国民年金と社会保険が強制加入となっており、皆保険制度がとられています。つまり年金は税金と同様と考えてよいとのことでした。
次に、実体験を踏まえて、公的年金の制度体系について、説明してくださりました。公的年金は3階構造になっており、勤務先が大手企業かベンチャー企業か、または民間サラリーマンか自営業者かなどによって各人の年金額が大きく変動するという話は印象的でした。さらに深澤様ご自身の年金給付額をお知りになったのがつい最近であるという話も交え、近年、外資企業からの圧力や会計制度の国際基準への合致の要求を背景に、企業年金が確定給付型から確定拠出型に転換することが多くなっており、運用の個人の責任が重くなってきていることもあり、必ず就職先の年金制度は調べるように、という有難いお言葉もいただきました。
続きまして、公的年金全体の資金の流れについて、詳細にご説明いただきました。お話の冒頭で、公的年金制度は将来的に危うくはない、と断言されました。その理由は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用する年金積立金の運用率は過去10年平均で+4%となっており、運用資産額は世界一であるからということでした。
ご講演の後に、「私的年金の促進のため、公的年金の負担を減らすべきか」をテーマにグループ討論を行いました。私的年金は富裕層にとっては良いが格差を助長するため、セーフティーネットという意味合いの強い公的年金を維持するという結論に至った班が多くありました。
最後に、深澤氏は、年金制度は経年とともに変化していくものであり、何回も学び理解し意見を持つことが大切であるというお言葉をいただきました。お忙しい中、興味深いご講演をありがとうございました。
(慶應義塾大学法学部政治学科 鐏 京香)
2018年10月「東南アジアのベンチャー企業投資を通じて得る経験とビジネス観」
廣田隆介氏:
慶應義塾大学卒業後、2009年三菱商事に入社。金利・為替・株式のマーケットオペレーションや在東南アジア事業投資先の資金調達支援を担当されたのち、2015年に現Spiral Ventures Pte. Ltd.入社。現在、プリンシパルとして東南アジア主要6ヶ国の新規投資及び投資先支援業務を担当されている。
本アラムナイトーク前半のご講演では初めに、近年身近になった様々なサービスをあげながら、スタートアップやベンチャーキャピタル(VC)が何たるか、そしてその投資の仕組みについて解説して下さいました。従来型の小規模ビジネスとは異なり急激な成長軌道を描くスタートアップは、成長を支えるための資金を必要とします。その為の投資、各種サポート、監視を行うのがVCであり、成功確率約7%にあたる黒字化可能な会社を見つけ出し、株式の売却によりリターンを得て収益化するビジネスとなっています。
次に、東南アジア経済が大幅な人口増に伴って高成長が見込め、さらにその特徴としてモバイル端末が広く普及していることや、スタートアップ投資の規模が日本以上であることについて触れられました。具体例として紹介いただいたユニコーン企業やエグジット例の中にはオンラインサービスで成長した会社や、東南アジアに適した配車サービスの他、日系スタートアップの展開例も見受けられました。一方で、東南アジア経済には未整備な金融インフラ、通信・物流網、商習慣や文化の違い、政治リスクなど日本とは異なる留意点が数多くあることも示唆されました。
最後にキャピタリストのキャリア例を踏まえ、新卒でどのようなキャリアを歩むべきか、いくつかの例をご提示いただきました。廣田氏が以前から関心を持たれていたVC業界に転職されたきっかけは、三菱商事に勤めていらっしゃった際、在シンガポールの金融子会社に出向し東南アジア関連ビジネスの成長速度を肌で感じた事だそうです。キャリアが複線化する時代においては、自分の強みを身につけた上で後悔しない選択をすることが大切だと仰いました。
後半は講義を踏まえて、「東南アジア地域において、市場価値の高い日本の事業は何か。またその事業が成長しやすい環境は日本とシンガポールのどちらか。」というテーマで学生同士のディスカッションを行いました。介護や健康管理、物流やサイバーセキュリティ、教育といった様々な分野の事業が挙がり、シンガポールに拠点を置いて東南アジアに密着した形式で展開する方が良いのではないか、という意見が多く出ました。廣田氏からは、身近な悩みの種や様々なマーケットの成功例からヒントを得て、自分のいる場所で変化を起こそうとする思考が重要であるとの言葉をいただきました。
日本でも様々なサービスが浸透し就職候補としてもベンチャー企業への関心が高まっている昨今、業界の仕組みについて理解を深められただけでなく、大企業とベンチャー企業の双方の利点やキャリアプランを多角的に捉える貴重な機会となりました。最後に、一時帰国中でお忙しいなか私たち学生のためにお時間を割いてくださった廣田氏に心よりお礼を申し上げます。ありがとうございました。
(慶應義塾大学経済学部 太田 暢)
2018年7月「世界の金融市場を相手に働く意義-先輩から後輩たちへ−」
瀧塚寧孝氏:
2012年に東京大学工学部建築学科卒業後、2014年に同大学院経済学研究科を修了。現在は公的機関に勤務されている。
7月フォーラム開催。今回は瀧塚寧孝氏にお越しいただきました。瀧塚氏は大学院生のころにKIPに所属され、アメリカ研修にも参加されたKIPアラムナイメンバーの一人です。フォーラムでは、瀧塚氏と共にアメリカ研修に参加されたアラムナイの方々も多くいらっしゃり、終始和やかな雰囲気で行われました。
瀧塚氏はご講演を「社会人としてどのように仕事の生産性を上げるか」、そして「仕事の経験を通して学んだこと」の二点に大きく分けてお話くださいました。はじめに、どのように仕事の生産性を上げるか、という点について、ご自身のお仕事での経験に基づいて話されました。瀧塚様は、ご自身が経済調査のために聞き取り調査をされた経験から、誰かの協力を得ながら仕事をする際は、まず相手のことをよく知り、相手に信用してもらう必要があると述べられました。また、限られた時間の中で何を求められているかを考え、それをいかに効率よく実行するかを意識すべきだとも述べられました。 次に、仕事の経験を通して学んだことについて話されました。この中で瀧塚氏は、ご自身の職場が公的機関であり、かつスペシャリストとしての仕事を担われていることの特色として、若手のうちに任される責任が大きく、それだけ社会に与える影響も大きいということや、研究結果を通じて若手でも多くの人と繋がりを持てるということ述べられました。そして、このように経験を重ねて自分の専門性を高めていくにつれて周囲がそれを評価してくれるようになるという点がこの仕事の面白さだともおっしゃりました。
ご講演の後のグループディスカッションは「将来のキャリアのために大学外で何を学ぶべきか」というテーマで行われました。各グループからは、他者との交流や協力の経験を積む必ことが将来のキャリアに役立つといった意見や、多様な価値観の中に身を置くことでまず自分について知る必要があるという意見が出ました。また、多くのグループから共通して聞かれたのは、学生は失敗が許されるのだから失敗を恐れずあらゆることに挑戦すべきだという意見でした。瀧塚氏はこれに対して、学生時代は様々なことに挑戦すべきだが、それに対して評価されることは少ないため、積極的に行動に対する評価を求めるべきだと指摘されました。
瀧塚氏は学生の時点では知り得ない、社会に出てから必要となるポイントについて、ご自身の貴重な体験から話してくださいました。最後になりますが、ご多忙の中私たちのために時間を割いてくださり、ありがとうございました。
(嶋津 寛之)
2018年5月「リニア中央新幹線の意義と東海道新幹線の役割」
粂川浩二様:
東海旅客鉄道株式会社に入社後、総合職として、人事部などを勤められたのち、現在は広報部東京広報室室長を務められている。
5月フォーラム開催。今回は東海旅客鉄道株式会社、広報部東京広報室、粂川浩二様をお招きしました。ご講演のタイトルは「リニア中央新幹線の意義と東海道新幹線の役割」で、「概要〜JR東海の誕生と使命〜」「東海道新幹線の競争力強化」「リニアの挑戦」という三つの論点を中心に、リニア中央新幹線と東海道新幹線が今後の日本にどのような変化をもたらすのかについてお話しいただきました。
はじめに、粂川様は「概要〜JR東海の誕生と使命〜」という観点から、国鉄の崩壊とJR東海の誕生についてお話しくださいました。具体的には、1949年から1987年まで存在していた国鉄は、政治の影響を強く受け、運賃の値上げや、数十年後を見据えた投資が困難であり、サービスの質や従業員の士気の低下が発生しました。最終的には、国鉄は37.1兆円もの負債を抱え倒産してしまいました。その後1987年に、国鉄をいくつかの組織に細分化しJR東海が誕生しました。JR東海のマーケットとなるのは、日本の総面積の約24%の地域、人口は総人口の約60%、GDPは全体の約65%であり、日本の大動脈であるこの地域、すなわち東京と大阪を太く確実につなぐことが使命だと仰いました。
次に粂川様は「東海道新幹線の競争力強化」という観点からお話しくださいました。東海道新幹線は、安全性、正確性、快適性、高速性、高頻度、環境適合性、の6つのポイントを重視しており、例えば安全性という観点では、地震が発生し、P波を感知してから2秒で新幹線を停止させるか否かの判断をする仕組みを整えたり、2本のレールの内側にそれぞれ1本ずつレールを引くことによって車輪がレールから外れて車両が脱線しないような仕組みを構築したりしているとお話しになられました。
最後に、「リニアの挑戦」という観点から、リニアがもたらすものは大きく分けて、大動脈の二重系化、移動時間の短縮による三大都市圏の一体化、東海道新幹線の活用可能性の拡大の3点であるとお話しくださった。また、あえて時速500km、地上から10cmの浮上走行という革新的技術に挑戦する意義の一つとしては、地震が発生した際にも安全を確保するという、日本固有の背景もあるとおっしゃった。さらに、中央新幹線はJR東海が全額自己負担で建設を行なっているとお教えくださった。
以上の講演を踏まえ、私たちは「リニア中央新幹線のメリット、デメリット」というタイトルでグループ討論を行った。メリットとしては、東京と大阪が1時間でつながればビシネスパーソンにとって時間を有効活用できるようになるという点、単身赴任をしなくてよくなるかもしれないという点、旅行が気軽にできるようになるという点、人の移動が流動化するという点があがった。デメリットとしてはトンネルの採掘など環境への負荷がかかるという点、移動に時間がかからなくなるため観光地の宿泊施設の利用者が減少するかもしれない点、人口の都市部集中によって格差が拡大してしまうかもしれない点があがった。
粂川様はリニア開通による6000万人を超える都市圏の形成は世界に類を見ないと述べ、今回の講演は今後日本がどのように変化していくのかということを考える貴重な機会となりました。最後になりますが、お忙しい中、講演に時間を割いてくださり、ありがとうございました。
(野田 遼介)
2018年4月「Nissan Intelligent Mobility Vision」
ダニエレ・スキラッチ氏:
イタリアのポリテクニック大学を卒業した後、ルノーを始めとした自動車業界を牽引する会社、フィアット、トヨタ、レクサス、トヨタを歩き渡り、現在は日産自動車株式会社で副社長としてご活躍なさっている。
まず始めにスキラッチ氏は、「日産がグローバルリーダーとしていかに世界規模の諸問題に取り組むのか」を熟慮しているとご教授くださいました。具体的に日産は環境保護のために、自動車のガス排出量ゼロを目指しています。世界の散在する問題に積極的な姿勢を取る理由は、決して企業のためを思ってのことではありません。それが顧客の持続可能なライフスタイルに直結するからです。日産は常に顧客の幸福というものを最優先に考え、排出量ゼロの自動車を開発するために、他社と技術の連携を図り日々研究を重ねているそうです。
次に、スキラッチ氏は「自動車業界のこれから」についてもお話しくださいました。先日Uberの自動運転車が交通事故を起こしたことで大きな話題を呼びましたが、この事故が起因となり自動運転における責任の所在を巡る議論が世界中でなされていて、日産もこの問題に積極的に関わっているとおしゃっていました。
また、「日本の問題点」についてのお話も頂戴しました。第二次世界大戦後の日本は、産業の再興に時間がかからなかったことが世界的に賞賛された一方で、バブルがはじけた後、日本の成長率は圧倒的に低下しました。その原因としてスキラッチ氏は、「日本における多様性の欠如」を指摘されました。アジアの中でも中国やシンガポールなど目覚ましい成長を遂げている国々は、多様性を受け入れることで、自国の発展を試みています。スキラッチ氏は、日本もこの波に乗り遅れてはならないと示唆しました。
以上のようなご講演を踏まえ、私たちは「若者の自動車所有欲は将来失われるか否か」について話し合いました。結論としては、「減ってはいくが完全には失われない」という答えに辿り着きました。まず「自動車の所有欲」には主に二つの種類があると考えました。一つ目は「移動手段として自動車を使用したい」と思う所有欲。二つ目は「ステータスや娯楽として自動車を持ちたい」と願う所有欲です。前者の所有欲は、公共交通やカーシェアの発展により減っていくと予想しました。一方後者は、人間の本質には他者よりも優位に立ちたいという欲望があるため、自動車が使われなくなったとしても所有欲はなくならないと考えました。
スキラッチ氏はタイムリーな話題を話に織り交ぜながらお話くださり、今後の自動車産業と日本について改めて考えさせられるような貴重な機会となりました。最後になりますが、今回のご講演のためにお時間を割いてくださったダニエレ・スキラッチ氏に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
(松崎 美結)