2017年2月「今日の欧州とイギリス政治の変容」
講師紹介
サイモン・キング氏は政治と国際問題に関心を抱き、英国の三大政党の上級政治家に幅広い問題についての助言を行ってきました。キング氏は1990年代、国家安全保障と国内政策を専門にした政策顧問としてイギリスの公務に携われました。2008年から4年間は首相秘書官に任命され、2名の首相(ゴードン・ブラウン首相とデイビッド・キャメロン首相)と緊密な関係をとっていました。2012年には当時の内務大臣であったテレサ・メイ氏(現在の英国首相)の戦略ディレクターに任命されました。
2月フォーラム開催。今回は、英国のブラウン首相、キャメロン首相の補佐官を務められたご経験があり、現在は日本で活動していらっしゃるサイモン・キング氏をお招きし、主にイギリスがEUを離脱するにいたった要因についてご講演をいただきました。
キング氏は、何故イギリスがEUから離脱するに至ったかを説明してくださいました。地域ごとに違いはあるけれども、全体としてイギリスの国民は変化を求めていたといいます。その理由として、グローバリゼーションと移民という二つのポイントからご説明いただきました。
グローバリゼーションは資源を適切に分配することが容易になるため、各国の経済にとって好影響をもたらすと考えられています。しかし、いい影響だけではありません。まず不平等を促進することにもなります。貧富の差は拡大し、貧しい人はより貧しくなる、スキルがないと勝てない時代となっているのです。次に、いわゆるグローバル企業は成長を続け、やがて税を払わなくなる、という恐れもあります。そして、数十年前は経済力が弱かった国々が急激に発展してきていることにより、イギリスの市民が以前よりも自国に誇りを持てなくなってきているという心理的な影響も与えているといいます。
次に移民の問題についてです。EUの重要な規律の一つに、加盟国の国民が自由にEU域内を移動できることがあります。ただそのため、毎年10万人ほどの人々が東欧からイギリスへ移動しているなど、移民の流入に歯止めがかからなくなっています。移民により生ずる主な問題に、アイデンティティの喪失があるとおっしゃっていました。イギリスの地元の文化や伝統を受け入れようとしない移民は少なくなく、代わりに自分たちの文化を地元に持ち込んできます。このような移民の行動が地元住民に不快感を与えています。またテロの増加も移民に対する反感を抱く要因として捉えられています。
EUの離脱にはSNSの存在も大きいといいます。ネットやSNSから情報を収集することは自分と似た意見のみを収集してしまうという危険性もはらんでおり、EUの離脱について中立な視点から考えることを妨げる要因にもなったと分析していました。
討論では大量の移民に対して政府はどのように対処すべきか、というテーマの下、各グループで具体的な施策について話し合いました。発表では、言語学習を通じて受け入れをしやすい国内環境を整えると同時に、移民が大量に流入しないよう海外に投資を行って経済成長を促進し、海外に行かなくてもいいような国際環境づくりをすることが大事であるという意見が出て、移民の問題は国内だけで完結するものではないということを再確認させられました。
今回のフォーラムでは、イギリス国民が日常生活からアイデンティティの喪失にさらされている、という日本にいるだけではわからない移民にまつわる問題を説明いただき、視野を広げることができました。このような機会を下さったKing氏に心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
(Igor Zavialov、訳:多田哲朗)
2017年1月「政府開発援助 (Official Development of Assistance, ODA) を通してみる世界・アジアのなかの日本」
長野俊介氏
略歴:大学卒業後、外務省に入省。イェール大学大学院で米国史を学んだ後、インドでの勤務を経て金融庁に出向され、日本がTPP交渉へ入る瞬間を見届ける。現在は外務省国際協力局政策課 課長補佐としてODA推進に携わる。
1月フォーラム開催。今回は、外務省国際協力局政策課課長補佐の長野俊介氏をお招きし、日本の開発協力政策の一つである政府開発援助(ODA)についてご講演をいただきました。私たちはこのご講演を通して、ODAについて様々なことを学ぶことができましたが、以下では長野氏による講義内容と質疑応答、ディスカッションの模様を抜粋してご紹介したいと思います。
安全保障や国防に関心のあった長野氏は、先人たちが尽くしてくれたからこそある日本の発展に貢献したい、日本人であることを大切にしたい、といった意志で大学卒業後に外務省に入省しました。外交の場においては、「国」が重要な単位であり、日本にとって望ましい国際環境を整備すること、つまり「国益」を最大化することが求められます。具体的には日本人の安全を確保したり、文化面で日本のイメージアップをはかったり、政治的・経済期立場を向上させたりすることがこれにあたります。しかし日本として独善的に行動するのではなく、国同士の強みを相互に活用し、弱みを補い合うことでWin-Winを追及することが同時に求められています。日本の強みは世界第3位を誇る経済力のみならず高い技術力や悠久の歴史、魅力的な文化も挙げられます。サウジアラビアの国王が日本の天皇に特別な尊敬を払っていること、日本の食がミシュランの星を多く獲得していること等は歴史・文化面の強みの例です。
ODAはそんな日本の強みを最大限活用できる、国際協力の重要なツールです。ODAの目的は開発途上国・地域の経済社会開発により、国際社会の平和・安定・繁栄に貢献することにあり、これを通じて日本の国益が確保されるとの考えに立っています。「情けは人の為ならず」との格言が示すように、ODAが慈善事業ではなく、Win-Win関係の構築を目指していることを意識しなくてはなりません。ODAには無償資金協力の他に、有償資金協力や技術協力も含まれ、相手国の状況に合わせてこれらが使い分けられます。長野氏は国際協力局政策課の一員として、ODAをいかに戦力的に使うかを検討し、大きな方向性を決めています。有償資金協力の代表的なものは円借款で、低金利・長期返済期間を原則に貸しつけを行うものです。円借款は一見、日本の経済的な負担が大きいように思われます。しかし長期的な返済期間が設けられていることで、日本と当該国との間にこれに応じた長期的な友好関係が成立することが期待できるのです。技術協力についても日本の技術が流出してしまうのでは、という不安な声が聞かれます。しかし、技術協力で移転されるのは基本的な技術であり、むしろ技術者を養成することによって現地での日本企業の設立や運営に彼らの技術を活用することが可能になるのです。
時には「どう解決しようもない問題」があります。明確な正解を与えられることがないなか、いかなる配分をすべきか。それを国民にどう説明すべきか。日々こうした課題に取り組むのが国際協力局の仕事です。
<質疑応答>
Q.「現地の需要と日本の供給のミスマッチが生じることはないか」
A.「『安くて早いインフラではなく、丈夫で長持ちする質の高いインフラを提供する』、というのが日本のODAの特徴だが、真に必要なものへの見極めはもっとも重要である」
Q.「ODAの成果を評価するのは難しいのではないか」
A.「日本企業の受注数や世論調査による数値化以外でODAによって得られたことを短期的に評価することは難しいが、国民の税金を使う事業であるためしっかり説明責任を果たしていかなければならない」
<ディスカッション>
「日本はODA予算を増やすべきか」という問いについて意見を交換しました。結果は、すべての班がODAの現状維持または増額に賛成する立場をとりました。継続的な援助を行うことで国際関係の安定がもたらされること、受注する日本企業に経済的効果があること等が主な理由でした。ただ現状の配分については、経済インフラ(輸送、通信、電力)に比べてより市民に近い、社会インフラ(教育、保健、上下水道等)への投資配分を増やすべきだとの意見もあがりました。中国人の留学生からは、「日本が中国にODA協力を行っていることはあまり認知されていない」、「国民の目にみえやすいODAを推し進めるべきではないか」という声が聞かれました。
1月フォーラムは、日本が戦後の国際社会のなかで「名誉ある地位」を築くべくとってきた試みを、ODAという視点から問い直す一日となりました。最後になりましたが、日本の外交政策の真髄に迫るご講演をくださった長野俊介氏に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
(森原彩子)
2016年11月「リーダーシップについて(ハーバードビジネススクールでのケーススタディをもとに)」
新浪剛史氏
略歴:1981年に慶応義塾大学卒業。三菱商事に入社後、1991年にハーバード大学経営大学院でMBAを取得。帰国後に株式会社ローソン顧問に就任。2005年には同社代表取締役社長兼CEO就任。2014年に現在のサントリーホールディング株式会社に移籍され現在代表取締役社長を務める。
11月フォーラム開催。現サントリーホールディング株式会社代表取締役社長の新浪氏にお越しいただき、ハーバードビジネススクールでも使われた1996年のヒマラヤ登山隊の事件をモチーフにしたケーススタディを使いながら、リーダーシップについて講演していただきました。
本フォーラムは二部構成となり、前半は新浪氏によるケーススタディとご講演、そして後半はケーススタディをもとに、「もし自分がリーダーなら、どのように判断を下すか」を学生のみで議論しました。
新浪氏はまず、「このテキストを読んで、エベレストに行きたくなった人はいるか?」という問いかけを全員にされました。エベレストでの遭難事故が題材のテキストでしたので、行きたいという人はほぼいませんでしたが、そこから様々な問いを投げかけ、特に「テキストに登場した登山隊では判断を100%リーダーに委ねたが、そうすべきなのか、それとも他の副官や登山者にも意思決定にかかわらせるべきか」という問いに参加者の考えるリーダー像が割れ議論は白熱していきました。リーダーとして完全に自己判断に委ねるべきという意見もあれば、みんなの意見に耳を傾けられるほうがいいという意見もありました。「なぜホールとフィッシャー(テキストに登場した二つの登山隊のリーダー)は引き返すという決断をしなかったか。」という質問に対しては、自分の判断が正しいと示したかったといった意見や、過酷な環境で正常な判断を下せなかったといった意見や顧客の熱意を考えて引き返せなかったといった意見がありました。新浪氏は正しい判断はなく、第三者からしたら最も適切な判断は簡単に定まるかもしれないが、当事者がその場にいて冷静な判断ができず思考停止に陥ることは十分にあり得る、独断的に自分ですべてを決めるリーダー像もある一方で、周りに意見を言わせるリーダー像もあり、どちらの方が正しいとかはなく、それは我々自身で考える姿勢が大切ではないかと示唆されました。その上で、完璧な仕組みはなく、できるだけ完全な仕組みを作る努力をリーダーはするべきであり、最終決断はリーダーがするべきだが、周りの人の意見を聞いて議論を起こすべきであり、周りの人の意見を聞くには、リーダーの人間力と胆力がとても大事だと力説されたのが印象的でした。
今までのお話を踏まえて新浪氏は具体例を二つ挙げて話されました。一つはご自身が高校時代のバスケットチームに所属していた際の話——ベンチにいる選手の意見を聞こうとせず、結局勝てると思ったチームに大敗してしまった。試合に出ている選手とベンチにいる選手は見ている景色が違うのに、ベンチの選手の意見に耳を傾けないのが失敗につながった——という話です。二つ目に、織田信長の例を挙げ、織田信長も最後の慢心で本能寺の変を招き、結局天下統一ができなかったことに言及されました。これらの話は、いかに常に謙虚で、慢心しないでいることが難しいか思い知る例でした。また、今まで遭難事故は何回も起きているにも関わらず結局遭難事故を回避できなかったテキストの例を引用して、いかに失敗から学ぶことが難しいかをご説明下さいました。歴史上の失敗だけでなく、人間というのは自分の失敗から目を背けがちで、それゆえ失敗から学ぶことはとても難しい。しかし、それでも失敗から学べることは成功よりも多く、失敗から学べるかどうかはその人の人間力、つまり自分が失敗に向き合える度胸と周りに嫌なことを言われても受け入れられる姿勢があるかどうか、最後にもう一つリーダーである上で最も大事なことは、今回のアメリカ大統領選を例にあげながら、人間としてみんな長所短所両面もっているはず、その中での不可欠要素は「魅力的であること」と力説されました。
その後、質問タイムに入り、新浪氏は改めて自分と意見が異なる人の意見を聞くことの重要性を強調し、また若者にはもっと広い世界に出て欲しい、保守的にならないでほしいと様々な質問に対する回答の中で強くおっしゃりました。
後半の学生討論では説話にでてきた登山隊のリーダーであったホールとフィッシャーのどちらかに自分がなった場合、どのような判断を下すかをテーマにディスカッションを行いました。多くのグループは体調が悪い登山者の世話を自分で全部しようとしたのがよくなかった、登山の予定が遅れていた時点で引き返すべきだった、ルールを全員に守らせるべきだったと指摘した一方、リーダーとして副官の意見をもっと取り入れるべきだったかで意見が割れたグループもあり、一人一人が考えるリーダー像は異なるということも再確認できたディスカッションでした。
最後に、一人一人のリーダー像の違いを許容した上で、自分の考えるリーダーに必要な力を教えてくださった新浪氏に最後に感謝の意を申し上げたいと思います。全員にとって学ぶ場になっただけでなく、自分たちの考える理想のリーダー像について改めて考えるいい機会となりました。本当にありがとうございました。
(孔徳湧)
2016年10月「IoT(Internet of Things)時代の経営思想と哲学について」
千本倖生氏
略歴:京大卒業後、日本電信電話公社(現在のNTT)に入社。フルブライト奨学生としてフロリダ大学にて電子工学博士(Ph.D.)の学位を取得。NTTを退社後、第二電電株式会社(DDI,現在のKDDI)を創業し、続いて携帯電話事業(現在のau)、PHS事業(Y!Mobile,現在はソフトバンクに吸収)を立ち上げ、1999年イー・アクセスを創業。2014年レノバ社外取締役に就任し, 翌年8月よりレノバ代表取締役会長に就任。
10月フォーラム開催。今回は、KDDIやイー・モバイルを創業され、現在はレノバ代表取締役会長の千本倖生氏を講師にお招きしました。ご講演のタイトルは「IoT(Internet of Things)時代の経営思想と哲学について」。ご自身の経験を元に起業家としてのあり方についてご講演を頂きました。具体的には起業家としてどのような価値観で社会と向き合ってこられたか、起業に必要だったことなどをお話いただきました。
本フォーラムは二部構成となり、前半は千本氏ご自身の経験を基にしたご講演と質疑応答、そして後半は「起業家に大学教育は必要か」として学生のみで議論しました。
最初のご講演では、千本氏のご経験をお話いただきました。大学卒業から、安定的かつ大企業であった日本電信電話公社になぜ入社されたのか、そして、40歳で部下3000人という大部長の地位からなぜ起業家となることに踏み切られたのか熱心にお話して下さいました。なかでもそれらの決断に大きく影響を与えた留学時代のエピソードが印象的でした。千本氏はフルブライト奨学生としてフロリダ大学に留学されていた際に日本とアメリカの価値観の違いから、競争社会で生き抜く会社のあり方を間近で感じたということでした。千本氏がルームメイトとの会話の際、日本では安定的で国営である独占企業が良いとされていたことに対し、温厚なルームメイトが声を荒げて指摘されたそうで、それはフェアに競争する会社によって社会が進展するという価値観と正反対だったからということでした。日本に帰国後、日本電信電話公社が民営化された際に、千本氏はこの留学の経験が思い返され、起業を決意したと仰っていました。その後、日本電信電話公社と新たに競争する会社として現在のKDDIを起業されました。規模の差があっても、ベンチャースピリットと、コストとリスクを抑えた効率の良い策、さらには素質を補完しあえるパートナーを通じて成功されたということでした。千本氏はその後もチャレンジを続け、auやイー・モバイルの創業に携わられました。私たちはチャレンジを続ける千本氏の魅力や、尽きることのない情熱と若々しさに圧倒され、挑戦に踏み切る重要さをひしひしと感じることができました。
その後、起業家として必要なことを仰っていたことを踏まえて、「起業家に大学教育は必要か」をテーマに学生だけで議論しました。どの班でも活発な議論となり、最終的な結論も、必要でないとした班と必要だとした班が半々に分かれました。必要でないとした班の主な理由として、大学教育は起業に有用であるが必ずしも必要だとは言い切れず、むしろダブルスクールなどで実用性の高い教育を受けた方が良いということでした。一方で、大学教育が起業に必要だとした班の主な理由としては、幅広い視野や人脈形成、大学卒業という信用の獲得ができるからということでした。また、他に理系の学部ならば専門性が高く、起業する際に役立つだろうという意見もみられました。大学そのものの意義を問いた今回の議論は、私たちの人間形成はいかにされるべきかということまで通じていました。私たちはどのように選択をしていくべきか、その指針の一つとなった貴重な場となりました。最後にこの場をお借りして、お忙しい中講演をしてくださった千本氏に心よりお礼申し上げたいと思います。本当に有難うございました。
(藤原哲哉)
2016年9月「言語・進化・グローバリゼーション」
山下雄士氏
略歴:京都生まれ。大学卒業後、日商岩井株式会社(現在の双日株式会社)で鉄鉱石輸入や発電プラント関連の業務に携わる。2008年より国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)にてTOEIC Testsの担当をし、現在常務理事を務める。
9月フォーラム開催。今回はTOEICを運営する国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)の常務理事の山下雄士氏を講師にお招きしました。ご講演のタイトルは「言語・進化・グローバリゼーション」。前半部では英語能力測定試験としてTOEICのあり方、後半部ではグローバリゼーションに関する興味深いお話をいただきました。
最初にご講義の前半部では、山下様にTOEICの歴史や目的などTOEICというテストに関するお話や英語能力というものに関するお話をいただきました。そして、同じ英語能力測定試験であるTOEFLとの比較で、TOEFLが学術的な英語能力の測定を目標としているが、TOEICの目的はビジネス上のコミュニケーション能力を測定することにあることなどを述べられました。また、その目的をお話しされる中で、TOEICは忙しい社会人が気軽に何度も受けることができるように受験料を低く、試験時間を短く設定していることなどをお話くださいました。そういったお話の中で、特に印象深かったのは、いくらTOEICの点数が高くても、仕事の能力はそれだけでは語ることができないとお話しされたことでした。前半部の最後ではモチベーション維持の大切さなど幾つかの語学習得のための必要条件を教えてくださり、語学学習の途上にある私たちには非常にためになりました。
ご講義の後半部では「進化とグローバリゼーション」というタイトルでグローバリゼーションとその歴史、特徴についてお話ししてくださいました。その中でも印象深かったのは現在のグローバリゼーションとは単にアメリカ化を指すのではないかというご指摘でした。講義後の質疑応答の時間では、沢山の質問が寄せられていました。
その後のご講義を踏まえてのディスカッションでは、自分たちがあるエンジニアリング会社の社員であると仮定して、外国人社員を20%新規採用するとしたら、日本人の社員に外国人社員と英語で仕事をさせるか、外国人社員に日本語を身につけてもらうかどちらにするのか、をテーマに班ごとに話し合いました。どの班も話し合いの中で様々な意見が見られましたが、最終的な発表の段階では、「日本人社員が英語で仕事をするべきだ」という結論に達した班が多かったようです。その理由の大半は、今後の海外進出などを考慮すると、英語のできる社員が多くなった方が結果的には得だというものでした。また、外国人が日本語を学ぶべきだとする側からは、20%という数のために社員全員が努力するのはおかしいとの意見や、母国語の良さを見失う懸念などが挙げられました。そして、ディスカッションが終わった後には、山下様よりご講評とお言葉をいただきました。その中で、現在、日本では少子高齢化が進んでいるために、海外からの人材を活用するのは必要不可欠であること、しかし同時に英語力を伸ばすことは難しいということを語られました。現代の日本ではグローバリゼーションと英語力の重要性が盛んに語られています。そんな現代を生きる私達学生や若者にとって、「言語・進化・グローバリゼーション」をテーマとした今回のご講演は本当に興味深く、ためになるものでありました。最後にこの場をお借りして、お忙しい中講演をしてくださった山下様に心よりお礼申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。
(武野絹子)
2016年7月「伝統文化と”家”を守る」 水野勝之氏
2016年5月「アメリカ大統領選挙と日米関係」
四方敬之氏
略歴:5月フォーラム開催。今回は外務省大臣官房人事課長であられる四方敬之氏を お招きし、アメリカ人理系学生とともにアメリカ大統領選を通して、現在のア メリカ社会と日米関係の未来について議論しました。講師としてご経験をもと に議論にファシリテーターとして参加していただきました。
本フォーラムでは、1)大統領候補の状況、2)TPP、3)日米安保とそれに関してトランプ氏とクリントン氏がそれぞれ大統領になった場合の日米関係の三点に焦点を当てて話し合いました。1)大統領候補の状況に関してのディスカッションでは、共和党候補のトランプ氏が国民の当初の予想に反して現在多大に影響力を持っている背景として、アメリカ社会においてどれだけ人々が憤りを感じているのかということを理解しなければならないという意見が聞かれました。そしてクリントン氏についてはあらゆる局面において立場を変える姿勢や彼女が関わっている組織の活動と彼女の政治家としての人格が矛盾していることなど、信用の面で問題があるという意見が聞かれました。2)TPPに関する議論では、アメリカ人学生にとって自由貿易の拡大というのは、逆らうことのできないグローバル化の流れであり、世界が自由貿易を進めていくのはもうそういうものだとして受け入れられているようでした。日本ではまだ賛否両論ある問題ですが、アメリカでは過去にあった議論という認識が強く、自由貿易の欠点を認識している人が少ないのだろうという印象を受けました。3)日米安保についてのトランプ氏の立場は、日本からアメリカ軍を撤退させ、日本自身が自国を守ればよいという主張をしています。これに対してアメリカ人学生の意見として、アメリカ軍は撤退させるべきではなく、撤退させてしまえば日本を始めとしたアジアにおける影響力を失うことになり、アメリカにとっても不利益を被ることになる、というものがありました。また、中国に対しても強硬な姿勢を見せたり、隣国のメキシコとの間に壁を作り、その費用はメキシコに負担させると主張したりするトランプ氏が大統領になった場合、対日の問題だけでなく、対外関係全般において、良い影響を与えないという見解が強いように感じました。その後、政治経験のないトランプ氏は大統領になるだけの素質や資格があるのかという点について、彼の過激な発言には裏の意図はあるのか、何も考えずにただ好き勝手に発言しているのかという疑問があがりました。これは賛否両論あり、彼の人間性を疑う学生もいれば、自らに注目を集めるための戦略なのだと考える学生もいました。
これらの議論を通して、トランプ氏のような過激な候補者が支持を獲得する背景にはTPPやNAFTAなどの自由貿易を進めることが一因となって経済的格差が広がり、以前に増して社会に憤りを感じる市民が増えたこと、日本でもそれらを真剣に考える必要があることに気付かされました。
(横井裕子)
2016年4月「グローバル世界とリーダーシップ」
4月フォーラム開催。今回は日本化学繊維協会会長、日本バイオプラスチック協会会長、また経済同友会の「社会・経済・市場のあるべき姿を考えるプロジェクト」の委員長などを歴任され、14年より帝人株式会社代表取締役会長を務められている大八木成男氏をお招きし、「グローバル世界とリーダーシップ」というタイトルでご講演頂きました。実業界のトップのおひとりである大八木氏からは、先行きの不透明感を増す現代の世界の捉え方と、そうした環境の中でリーダーがとるべき姿勢について、示唆に富むお話を頂きました。
前半では、現代の日本を取り巻く要素としてグローバリゼーション、デジタライゼーション、ICT、少子高齢化の四点を挙げられ、現代の社会が多様化・複雑化していることを述べられました。中でも、サービスと情報を結びつけるICTという技術は帝人社でも取り組まれている分野であり、実際、人の命にかかわる呼吸器系の医療機器の管理などをなさっているという例を挙げてくださりました。こうした現代においてリーダーはどうあるべきかお話いただき、特に印象に残ったのは、リーダーとは、業務の遂行を管理するマネジャーとは違うというお話です。リーダーはビジョンをしっかりと明示し、実現させる責任に加え、将来のリーダーとなっていくフォロワーを育成していく責任も担っています。さらに、リーダーにはビジョンを実現する戦略と使命感も求められるそうです。その一方で、リーダーを支える良きフォロワーの視点を考えるため、桃太郎の例え話をされました。桃太郎はリーダーとして、犬、雉、猿の三人のフォロワーを連れていますが、それぞれ犬は行動、雉は情報収集、猿は企画の能力を表しています。そして、この3タイプのフォロワーのうちどれが最も重要かというと、犬の行動であると答えられました。なぜなら、何らかの計画を行動に移した時に初めて不十分な点に気付けるため、行動する立場になって考えるべきであるからです。私は、めまぐるしく情報が飛び交い、斬新な発想がイノベーションとなっていく昨今の社会では「情報」や「企画」が重要とされるのではと予想していたので、氏のお話に驚くとともに新しい発見をさせていただきました。
後半では、大八木氏のご講演を踏まえて、「リーダーはフォロワーの意見をくみ取るべきか」という議題でグループディスカッションを行いました。同じ議題の討論でもグループによって、リーダーやフォロワーを務めた実体験から理想的なリーダーの役割について考えるなど、程度問題の議論にならないよう状況を設定する独自の工夫をしていました。多くのグループでは、目的を最もよく理解すると同時に責任を持っているのはリーダーであるから、決定はリーダーの意思に基づいて下されるべきという意見が出ました。一方でフォロワーの意見を汲み取るメリットとしては、フォロワーのやる気向上や、多様な意見から新たな発見が期待できるという意見もあがりました。日々集団の中で暮らし、リーダー・フォロワーとして行動している私たちが、どのような組織が理想的な形なのか改めて考える有意義な機会になったと思います。この場をお借りし、ご多忙の中私たち学生のためご講演をしてくださった大八木様に感謝申し上げたいと思います。ありがとうございました。(尾根田紘観)