2024年3月「日本の統治構造」
【スピーチと質疑応答】
スピーカーより、「派閥」とは何か、その成り立ち(中選挙区制など)や役割(選挙支援・資金援助・人事)についてお話を頂いた。さらに、政官関係や、日本で政策が決まるプロセスについてもお話して頂いた。1990年代からの政治改革、小泉・安倍政権を経て政治家の政策に対する影響力が強まるなど、近年は大きな変化がみられることも指摘された。
【全体討論】
政党の党内派閥は解体されるべきかというテーマのもと討論を行った。政策や信念ではなく資金や人事が目的と化した現在の派閥は好ましくないとする意見や、大集団の中で人間が集まって派閥を形成するのは自然であり止められないから、派閥を残しつつ現在の問題点を解決すべきではないかという意見が出た。また、派閥を無くした場合、閣僚等に人材を登用する上で何を基準にすればよいのか、若手人材や女性が選挙に勝ち登用されるために派閥など組織的サポートは不可欠ではないのか、そもそも同じ政党内に違う意見の派閥が分立するのは不自然ではないか等の疑問も提起された。テーマの賛成・反対派とも、人事のポスト配分や資金を目的とする現在の「派閥」には批判的だが、政党内に何らかの「グループ」があることは容認しており、グループに参加する際の基準をどうすべきか等について更に議論があった。
【全体私感】
重要であっても自分で本を読む等して知ることはなかなか難しい内容であり、今回のフォーラムは大変勉強になった。討論では、私は最初は派閥解体に賛成だった。しかし、自分と違う意見や指摘を多く聞きながら自分の意見を検討・修正していくと、現在の「派閥」の在り方は問題だが、同じ志を持つ人がグループを作ることは自然であり、実務上も、指摘されている問題点を改善した上で、党内グループが政策論議や若手人材育成に積極的・建設的な役割を果たしていくのが現実的かつ有益だろうという意見に変わった。このように、普段あまり考えない問題を考える契機、かつ、他者の多様な見解の長所を取り入れて自分の思考や意見を改善・強化する機会として、フォーラムの討論は非常に有益だった。また、個人的に、政治の話はそれ自体大変面白かった。貴重なお話を頂いたスピーカーに改めて感謝したい。
東京大学法学部3年 後藤正樹
2024年1月「日本の大学は卒業を難しくすべきか」
講義という形でのインプットはなしに、日本の大学における卒業難化の是非について率直な意見をぶつけ合い、日本の大学生の学問への向き合い方を改善する方法について検討した。
【背景】
日本の大学は、卒業の困難さの点で海外大学と比較されることが多い。日本の大学生の水準が低いという問題から卒業を難しくするべきという声がある一方で、卒業要件にゆとりがあることで、在学中にサークル活動などに精を出し、大学卒業までの時期を学業以外の人間形成や社会勉強のために活用できるなどのメリットが存在することも確かだ。大学とは何を学ぶべき場所で、それが社会にどう影響するのだろうか。
【グループ・全体討論】
賛成派の意見には、「真面目に勉強させる手段としては卒業を難しくすることが最適だ」、「そもそも大学は学問を追求することを目的に作られたので、その意義を取り戻すべきだ」、「学内で学業モチベーションに大差があることは、やる気のある学生にとってよい環境とはいえない」、などが挙げられた。反対派の意見には、「卒業が難化し留年した場合、生活費を賄うためのアルバイトが原因だったとしても、奨学金がストップして通えなくなる」、「今日社会で求められているスキルは学業とは関係のないものが多い」、「ただでさえ都市と地方の教育格差が問題視されるなか、卒業の難易度が上がれば大学進学率自体が低下する」、などが挙げられた。その後反対派から代替案として、「履修登録する際に志望理由書を提出させる」、「ディスカッションでの発言量や質自体を評価の対象にする」、「授業の冒頭で小テストを課し予習を促す」などの提案があった。しかしこれらは結果として卒業の難化に繋がるとの気づきから、話題は大学の存在意義に移った。ここでは「学問を社会貢献につなげることで、学術的な研究の資金を得ることができる」や「そもそも就職活動のスケジュール(大学3年のまたは大学院1年の春から始まる)が学業への集中を阻害しており、大学のあり方よりも社会システムの方に問題があるといえる」などが挙げられた。
【全体私感】
賛成反対に分かれたものの、大学が形骸化し学問的な意義が薄れていることに危機感を感じているという点で両者は共通していた。討論の結果、大学とは知的好奇心を燃やすコンテンツを提供すべき場所であり、そのコンテンツは大学ごとにユニーク(ディスカッション中心、講義中心、リベラルアーツ、ダブルメジャーなど)があるべきだとの気づきを得た。また、大学をひとまとめに変えていこうとするのではなく、選べる幅を持たせることは結果として学生の学業に対する主体性を高めることにもつながると感じた。その一方で大学のあり方に変化を加えることには、様々なリスクも伴う。反対意見にもあったように、奨学金を借りている学生が卒業難化によって留年し大学に通えなくなれば、最終学歴が高卒となり就職の幅を狭めてしまう。大学が特定の層に寄り添いすぎないように、方法だけではなくその程度についても丁寧な検討が必要であると考えた。
立教大学現代心理学部3年 松矢花奈
2023年11月「米国大学における教育機会とDEI」
講師:伊藤公一氏
中学校時代に渡米して以来アメリカに住み、Yale大学数学科を卒業。その後日本の某企業勤務、アメリカの企業の代表取締役を経て米国投資信託会社の会長、イトゥビル取締役会長を経て現在に至る。
伊藤公一氏から、アメリカの大学におけるDEI(Diversity, Equity, Inclusive)を中心とした米大学の多様性社会についてお話を伺った。
【スピーチと質疑応答】
アメリカの最高裁判所による、Affimative action(肯定的処置)に対して、違憲判決が出されたことを契機に、アメリカの大学におけるDEI(Diversity, Equity, Inclusive)の話題を話していただいた。アメリカの大学の例として、イエール大学が引き合いに出され、問題提起された。一例は、入試方式である。アメリカでは、イエール大学を含め、トップ大学の入試方式でAffimative actionが取られている。この入試方式によって、大学側は多様な学生を受け入れている一方で、そのために人種や学生のバックグラウンドによる選別をしている可能性をお話の中では触れられた。この問題点の例として、人種による学力試験の成績データが公開されず、その基準が不透明であることや、学問の裾野が広がりすぎていることが挙げられた。また、Affimative actionによる学問の発展が期待されているが、むしろそれを妨げる可能性がある点についてもお話いただいた。その後、DEIの難しさや、アメリカの私立大学と日本の大学の寄付金の違いについて議論が推められた。このように、スピーチでは、DEIを重視すべき、という風潮のなかで、なぜ必なのかを考えるきっかけをいただいた。
【グループ・全体討論】
全体討論では、アメリカの大学の事例から発展し、日本の事例に話題が広げられた。この日本の事例では、参加者にとって、身近な例から始まり、公正性や包括性に焦点を当て、議論が進んだ。例えば、高校から大学に入る時点で、DEIが配慮されているのかというテーマである。そこでは、日本の高校教育には、教育環境の格差があることや、学生が各大学の権威性を意識しすぎていることが挙がった。また、オーストラリアに留学中の学生から、「セーフプレイス」の話が挙がり、話し合われた。このとおり、全体討論では、伊藤氏からのスピーチをもとに、DEIの必要性を様々な角度から議論した。
【全体私感】
今回のフォーラムは、とても印象的なものだった。私自身、世の中で起きている問題や解決策に対して、懐疑的にみるのではなく、盲信的に物事を捉えていることがある。ただ、今回のフォーラムを経て、一つの見方ではなく、批判的側面を含め、多面的にみることの重要性を実感した。アメリカの大学のDEIの導入のように、一般的に良い評価を受けているようにみえるものも、一つ見方を変えてみると、他の問題の引き金になりかねない。同調圧力があるこの世の中でも、他人の意見を受け入れ、自分の考えの幅を広げる必要があると学んだ。
東洋大学国際学部3年 岸野来美
2023年7月「The Artemis Program: Plans to Return to the Moon」
講師:米国航空宇宙局 アジア担当代表 Garvey McIntosh氏
2017年8月以来、NASAアジア代表部代表(在アメリカ大使
昨年11月以来、2度目となるご講演を、米国航空宇宙局(NASA)のアジア担当代表であるGarvey McIntosh氏からいただいた。今回は壮大な宇宙開発産業プロジェクト「アルテミス計画」を中心に、月面着陸という象徴的な計画について、またそれに関わる国際的なパートナーシップについて、大変貴重なお話を聞くことができた。
【スピーチと質疑応答】
米国航空宇宙局(NASA)のアジア担当代表であるGarvey McIntosh氏をお招きし、壮大な宇宙開発産業プロジェクト「アルテミス計画」を中心に、NASAが主導する象徴的な月面着陸プロジェクト、そしてその推進において重要な役割を果たす国際的パートナーシップについて詳しくお話しいただいた。質疑応答の時間では日本が担う役割やその中にある課題、そして現在の国際情勢がどのように影響するかについても触れていただき、実際に宇宙開発産業の核心で働く方からの直接的な話を通じて、我々もその壮大で夢のような世界を体感することができた。
【グループ・全体討論】
宇宙開発産業の目標の一つである「地球外居住計画」に巨額を投じることの是非について討論した。我々の住む地球の資源は限られており、人類の持続的な破壊活動が続けばやがて限界が訪れると考えられる。討論では、地球外での生活の場を準備し、それに必要な技術開発を進めることは長期的な視点から見て人類にとって有益であるとの意見が出された。さらに、Garvey McIntosh氏のご講演を受けて、国際関係の発展に対する視点から、日本が地球外居住計画に関与することについての意義についても意見交換がなされた。これらの議論は、我が国の役割や他国との関係を考えるきっかけにもなった。
【全体私感】
自分の専門分野が理系であるため、宇宙産業についてお話を聞く際には自然と技術面に惹かれる。ところがGarvey McIntosh氏が語るNASAの宇宙開発産業は、単に技術やビジネスの問題だけでなく、国際関係や政治的問題も含む広範な視点で展開されることが私にとって非常に新鮮であった。時として、宇宙開発産業プロジェクトは時代の影響を受けたり、強い制約に直面することもある。NASAがこれまで築いてきた実績と信頼、そして使命があるからこそ、世界各国から企業、政府、団体が集まり、協力的な関係を結んで仕事をする意欲を持つ。その結果、国籍性別を超えたチームがこのような壮大なミッションに一丸となって挑むことが可能なのだというお話が非常に印象的であった。また前回に続き、今回もプロジェクトに対する日本の貢献度について多く触れていただいた。このような貴重なお話を聞くことができて大変光栄であった。
青山学院大学大学院理工学研究科修士2年 田中 里奈
2023年5月「ポスト・ウクライナ どうなる世界、どうなる日本」
講師:高島 肇久氏
1940年 東京生まれ
1963年 学習院大学政経学部を卒業しNHKに入局。ワシントン特派員、ロンドン支局長、ニュース21のキャスター(編集局長)、報道局長、放送総局特別主幹(理事待遇)・解説委員長などを歴任し、2000年に定年退職。
同2000年9月、国連広報センター所長、外務省外務報道官&参与、国連大学学長特別顧問, (株)日本国際放送社長などを経て、2015年、(株)海外通信・放送・郵便事業支援機構取締役会長, 2017年、天皇ベトナム訪問に外務省参与として随行。
【スピーチと質疑応答】
日本、世界を舞台に放送・メディア業界を牽引なさってきた高島氏のご講演当日は、偶然にもG7広島サミットの最終日であった。冒頭で高島氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領が対面で首脳会合に臨んだ歴史的な日であることに触れ、自由主義を掲げる国々の首脳が集まり議論することは、世界を動かしていく原動力の象徴であり、困難な国を支援する動きを素晴らしいことであると述べた。 冷戦後、アメリカ一強の時代が続いた国際社会は、中国の台頭などの要因もあり、現在、「100年に1度の大変局」を迎えている。つまり、20世紀後半に見られた、アメリカが世界を牛耳る情勢ではなく、アメリカの意に反して世界が動き始め、新たな時代が訪れていることを意味している。 その後、ウクライナとロシアについて言及した高島氏は、侵攻の現状を、欧州諸国のウクライナへの軍事支援状況を含んだ分析を基にお話しくださり、両国が互いに牽制している状況であるとした。領土侵攻をするロシア側と、あくまで自己防衛のために戦うウクライナ側の双方の思惑が交錯する中、世界各国がどのように対応するか、今後の情勢についても触れてくださった。 質疑応答では、日本の今後の国際社会の中での役割や、報道では伝えられない「闇」の部分といった質問に、ご丁寧に回答してくださり、学びがより深まる形となった。
【グループ・全体討論】
「メディアは中立であるべきか」という議論はグループ内でも全体でも白熱したものになった。「メディア」とはここでは何か、「中立」とはどういう意味か、そもそも「中立」は可能なのか、といった問いも手がかりとしながら、メンバーは自分の意見を構築した。しかし、各個人で捉え方が異なり、私のグループでも意見が二分する形となった。相対する立場が、具体例を用いて概念を相手に説明するなど、メディアが身近で私たちの生活と密接なものであるからこそ、当事者意識を持って討論に貢献した。全体討論でも意見は分かれたが、互いの考えをぶつけあうことで、より建設的な議論を構築できた。メディア(具体的にはマス・メディア)は公共性のために、事実を正確に伝えるという役割の視点、最終的には視聴者・読者が判断するという受け手の視点、FactとOpinionを分けて情報発信すべきという誠実などの別姿勢の視点、といった複数の視点を切り口に、テーマの核心に迫る議論が展開された。また、SNSに代表されるインターネット・メディアと従来のマス・メディアの対比も議論の上で鍵になったことも併記しておきたい。 総評として、高島氏からもご意見を頂戴できたが、詳細に分かりやすく、必要なデータを伝えるということ、受け手を中心で考えること、といった趣旨をお話しいただいた。
【全体私感】
今回のフォーラムを通して感じたことは主に二つ。一つは、国際関係と平和について。KIPでも最近は、国際関係をテーマとした内容が多いが、それだけ私たちは「外」にも目を向ける必要性が高まっているということであろう(「国際人」として必要な素養である)。思想・民族・言語の違いから、国家間では争いが幾度となく起きてきたことは歴史を遡れば分かることである。同じ惑星に住む者が相手を殺めるという悲惨な出来事をなくすため、平和を追求する姿勢は、広島を訪れた首脳だけでなく、私たち一人一人が意識して持つべきことだと強く痛感した。 二つ目は、メディアの役割について。将来、メディア業界に携わりたい私にとっては、メディアの存在を熟考する機会となった。メディアが個人、社会に果たす役割は大きい。そんなメディアと如何ように付き合っていくか、そして運営していくか。送り手・受け手の繋がりの重要性に改めて回帰し、今後の学びを一層深みのあるものにしたい。 高島氏の一つ一つの言葉は大変重みがあり、身に沁みるものばかりであった。それは、高島氏自身が、激動の時代をご自身で体験し、ジャーナリストとして情報を正確に迅速に伝えるというご信念の表れであると感じた。私が特に印象に残った内容を紹介し、5月フォーラム活動報告の結びとさせていただく—戦争は人類が背負い続ける最悪のこと。「悪」を減らしていくことは永遠の課題だ。
東京大学理科I類1年 奥秋 秀太