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2025年3月「少子高齢化社会における医療費負担のあり方」

講師:嶋津寛之氏 三井物産ウェルネス事業本部

略歴:2021年慶應義塾大学・ボッコーニ大学BIEM卒業後、三井物産入社。 国内疾病予防・健康経営事業を展開する関係会社に出向し、3年間健康保険組合・保険会社向けの事業開発・営業を担当。現在は三井物産にてヘルスケア関連事業への投資案件に携わる。学生時代はKIPにてプロジェクト(世代間交流PJ)や委員会に所属し活動。

【スピーチと質疑応答】

嶋津氏には健康保険組合に向けた営業に携わってきた経験から、 日本の健康保険の制度についてご説明いただいた。第一に大企業が持つ健康保険組合の現状、第二に世代ごとの健康保険制度の認識に関する調査結果、第三に、国が行っている対策についてという流れであった。健康保険組合は給料の一部を財源とする企業内で解決するものであったが、景気の悪化等の要因で赤字が続き、国費が使われる協会健保への切り替えが起きている。福祉元年とされる1973年から進んだ医療費の低負担化という社会状況によって、健保組合に納められる金額の一部は国に支払われることも財政の圧迫要因である。そこで現れたのが今回の議題となる高齢者の医療費負担の増額の是非である。後期高齢者の負担増額に関しては、若者の賛成が一番多いが全世代でも賛成が多くなっている。さらに、医療費の負担感については、高齢者が一番負担に思っていないということであったが、高齢者は資産の格差が大きいという課題もある。国は、すべての健康保険組合に対して、加入者の健康保持増進のためにデータヘルス計画を作成することを求め、健康寿命の延伸と医療費の最適化を進めている。医療費が高額で民間が主導のアメリカの事例なども紹介いただいた。質疑は現役医師でKIPアラムナイの方からの説明があったり、病院のサロン化について話したりとより視野を広げることができた。

【グループ討論と全体討論】

討論の議題は「現役世代の負担を抑えるため、高齢者医療負担は引き上げられるべきか」であり、単なる賛否だけではなく建設的な解決策を提示することを目標に行われた。グループ討論では、医療費負担を引き上げるだけではなく、各世代の不信感を解消し長期的な視野での取り組みが必要だということは合意された。その取り組みとしては、ある程度区分をつけて医療費を引き上げつつ、サロン化する病院への対処として、別の受け皿となる居場所を充実させるという意見もあった。低価格の日常の診療よりも、高額療法の負担を問題視する指摘もあった。全体討論は創造的な意見が多数出され、活発に行われた。例えば、健康に関する福利厚生の実施度合いによって企業の税金の支払額に差をつけるという意見が興味深かった。また、年齢以外の区分を設けるという意見もあり、全体として、本当に医療が必要な人に適切に国が医療を提供するにはという視点で議論がなされた。嶋津氏からは、根底にあるのは倫理的な話であり、自分がどの主体の立場で話しているのか意識して、多様な立場で考えることが重要であるという講評を得た。

【全体私感】

議論の場と、記事の執筆の過程を通して、現実的に社会に変化を起こすための取り組みについて考えることができた。まちづくりを専攻している私は、当初、高齢者が人と繋がれ、運動できる場を整備すれば、病気の予防になり不必要な医療も防げるのではないかと考えていた。しかし、私の視点は場所があれば自然と良くなるといった理想だけを語るものとなっており、どの主体が具体的に何を行うことでどれくらいの効果が見込めるのかという視点が欠けていたことに気がついた。より深く考え議論を発展させるために、具体化して人に伝えることを意識したい。企業の活動や、費用負担の区切り方については個人では辿り着かなかった視点だったため、考え方を広げる機会となった。また、医療費負担の制度についても初めて知ることが多く学び多いフォーラムだった。

京都大学総合人間学部3年  中村 真依子

講師:楽天渉外統括本部Global Intelligence Group Manager 松尾 愛子氏

略歴:2012年慶應公共政策専修コース修了後、船井総合研究所にてシニアエキスパート•グローバル担当者として7年間、日本全国の中小企業経営者向け経営コンサルティングに携わる。その後、東京オリンピック関連事業の国際関係担当を経て2021年より楽天グループ•渉外室及び新経済連盟の仕事も兼務し主に海外政府との渉外に従事。その後2024年5月まで、デジタル庁国際戦略チームに出向し、G7,G20,大臣外遊のサポート、大臣スピーチの作成、各国デジタル関連省庁との渉外関連業務を担当。 学生時代は5年間参議院秘書インターンに従事するとともに、KIPの設立時より委員会に深く関わり活躍。KIP創成期メンバー。

【スピーチと質疑応答】

松尾氏のご講演では、海外と日本におけるデジタル化の進展の差異に関してご説明いただいた。例えば、エストニアはデジタル社会のトップリーダーとして知られ、2001年にはX-Roadと呼ばれる、日本でいうマイナンバーに相当する電子政府プラットフォームが開発された。現在では投票、住民票の取得、結婚・離婚届の提出など全ての行政手続きをオンラインで行うことが出来る。ウクライナは2019年にDiiaというモバイルアプリケーションを開発し、行政手続きのオンライン化を行った。その他、フィンランドやアルメニア、インド、サウジアラビアなどでもデジタル化が進められている。日本での変革に関しても過去5年間を振り返ると、キャッシュレス決済やマイナンバーカードの普及、GIGAスクール構想の実現などが挙げられる。松尾氏は近年各国のデジタル化が著しいからこそ、海外の動向を知ったたうえで、日本にとって大事なものを海外との対比で知りながら経営や政策決定に活かしていくことが必要なのではないかとおっしゃっていた。質疑応答では日本のデジタル人材不足への対応方法、高齢化社会である日本におけるデジタル化の推進方法、デジタル化を推進するインセンティブはどこにあり、誰がデジタル化を主導しているのか、それらは各国異なるのかなどが話し合われ、白熱した議論となった。

【全体討論】

討論テーマは「日本の教育分野において今進めるべきデジタル化とは」であり、様々な観点から議論が交わされた。特に焦点となったのは、デジタル化に対する生徒と教師の対応、教育でのデジタル化推進に伴う影響や課題であった。教育においてデジタルを上手く活用するためには、生徒と教師の双方がデジタルリテラシーを養うことが大切であるとの意見が多かった。AIによる添削をはじめ、授業においてAIやデジタル技術の活用がされつつあるため、必ずしも教師が直接指導しなくても自分で勉強できる環境は整ってきている。しかし、教師は学校の管理者という役割のみならず、教師自身の多様な背景を活かして、生徒の印象に残るような授業を行う、生徒と人間味のある対話が出来るという役割・存在意義があるため、デジタルのみでは補えない部分もあるのではないかなどの意見もあった。

【全体私感】

教育分野におけるデジタル化を考えた時、私はタブレットの使用、オンライン講座の活用を通して学生側がデジタルリテラシーを高めることが大切で、それが効率的な勉強に繋がるのではないかと考えていた。だが、教育環境を鑑みると、英語や数学でAIを活用した授業が実施されたり、GIGAスクール構想が上手く実現できている学校もあれば、教師がデジタルに詳しくないとタブレットを上手く活用できず、学習のしづらさを感じたという学生の意見もあり、学校ごとにデジタル化の進捗度合いはさまざまであると感じた。したがってデジタル化の推進には生徒と教師の双方がデジタルリテラシーを養いつつ環境設備も整えることが大切であると考えた。その上でデジタル技術では補えない、生徒と教師、生徒同士の対話や、学習のしづらさを感じる生徒への個別フォローなどを重視することが大切なのではないかと思った。

東京女子医科大学医学部6年  小川 真依

【背景】

2024年は、「石丸旋風」が生まれた都知事選や、選挙期間中に候補者のアカウント凍結 が起きた兵庫県知事選挙、SNS広報に力を入れた国民民主党が躍進した衆院選や、トラ ンプ氏が再選したアメリカ大統領選など、国内外で選挙とSNSの関係をめぐる問題がたび たび取り沙汰された。選挙のたびに大きな存在感を発揮するSNSにおいて、選挙候補者と 有権者の発言は法によって規制されるべきだろうか。

【グループ討論と全体討論】

冒頭に委員会から、「偽情報」「誤報・誤情報」などのキーワードの確認や日本における法 制度の現状について共有があった。討論を始める前に会員の意見に従って賛成と反対に 分かれ、双方から安全性や言論統制の恐れなどいくつか代表的な理由を述べた。その後 各グループごとのブレイクアウトルームで意見を深め、最後に全体での議論を行った。 賛成派のブレイクアウトルームでは、SNSの収益化を最大の問題とし法規制による対策を 考えつつ、候補者と有権者の違い、偽・誤情報の判断主体など、様々な方面へと議論を 広めていった。テレビや新聞にあるのと同様の規制がSNSにも必要であるし、既に部分的 に規制は存在するが、「今は上手く機能していない」とまとまった。 全体討議では互いの主張の理由を説明していくなかで、より多様な意見が聞かれた。反 対派の意見として、間違いを訂正できるレジリエンスのある議論の場の担保、ユーザーのリ テラシー教育の優先、SNSではできない取材を行うマスメディアの責任、プラットフォーマ ーを監視することの実現可能性などが挙げられた。終わりに海外事例を検討し、日本の状況に合わせた対応策を考えることの必要性が示された。

【全体私感】

昨今の選挙をとりまくポピュリスティックなSNS活用から、私は「法規制すべき」という賛成の 立場を取っていた。しかし法規制により、言論の自由や中小政党の意見表明の場が損な われる恐れがあることを知り、平等な発言の機会を重視するのであれば法規制をすべきで はないのかもしれない、と思うようになった。 しかし言論の自由は人を傷つける自由ではないし、声の大きい人の意見だけが力を持つ ようなSNSであり続けるのであれば、レジリエンスがあれど健全な言論空間とはいえないだ ろう。 参加したのはほとんどが大学生だったが、高校生会員に学校でのリテラシー教育の現状 を共有してもらい、アラムナイの方からは現場でのSNSの監督責任や収益化への疑義など をお伺いできたことも興味深かった。また、海外経験を持つ人が選挙とSNSについて現地 で見聞きした実例を知ることができたのも非常に面白かった。多様な人々が集うKIPだから こそ生まれる議論ができたことは意義深いと思う。

早稲田大学教育学部4年  樋口実波

講師:Ms. Urmila Venugopalan

略歴: Venugopalan氏は現在、MPA(Motion Picture Association Inc.)の戦略およびグローバル・オペレーション担当エグゼクティブ・バイス・プレジデントとして活躍され、 外交政策と経済問題における多様な経歴を持つ。 2017年9月のMPA入社前は、オバマ政権でケリー国務長官の政策企画スタッフのシニアアドバイザーおよびメンバーとして、経済・ビジネス問題全般を指揮した。 この職務では、二国間および地域の貿易、投資、開発優先事項の強化に取り組んだ。 また、Albright Stonebridge Groupのシニアコンサルタントとして、主に南アジアや中東・北アフリカ地域の海外成長市場における政治・規制環境の影響を理解するために、米国企業や多国籍企業、国際的な財団を支援した経験も持つ。

【スピーチと質疑応答】

映画、テレビ、映像配信業界とMPAの役割について、示唆的で魅力的な講演をいただいた。有名な制作会社や配信サービスを会員に持つMPAであるが、規模の大小にかかわらず一企業が政府機関との交渉に臨むのは並大抵のことではないという。そこでMPAは一丸となり、この業界がいかに地域経済を牽引し、雇用を創出し、世界の文化発展に寄与しているかを示すために、政治家やその他の関係者と密に協力し、業界全体をサポートする役割を果たしていると伺った。

【全体討論】

議論のはじめ、私は越境著作権侵害に対して日本独自の罰則を設けるべきだと考えた。インターネットには国境がなく、AIによって個人が簡単にデジタルのコピー品を作れるようになったのだから、罰則は厳しくすべきである。加えて、クリエイターや国際機関が世界中の違反行為を監視し、厳罰を下すことは、コスト面でも人材面でも不可能だ。そのため、国際的な罰則の実現は難しいと考えていた。しかし議論の中で、各国政府や警察機関、司法を巻き込んだ国家間の交渉は難しいかもしれないが、国際的な民間の動画プラットフォーム内で同じルールや罰則を設けるのであれば可能であると気づき、それを受けて最終的に、著作権侵害の処罰は国際的に統一されるべきだという考えに賛成した。なお、国際法が形骸化することは避けるべきだと思うため、議論の中で出ていた、厳しい罰則を作り、国際的にコンテンツ力のある国から徐々に広めていくべきだという意見にも賛成する。 また、講演の中でも触れられていたように、現在はAIによる産業変革の真っただ中にあり、雇用の代替やディープフェイクなど、メリットとデメリットを踏まえどうバランスを取るかを考える必要性を感じた。私は、これに対して次のような解決策を提案したい。昨今、調査・研究データなど知的財産のオープンソース化が進んでいるように、映像作品は作者の手を離れたら学習に利用される可能性があるという前提で著作権制度を見直し、オープンソース化によってAIに模倣されても創作者に利益が還元される仕組みを作るべきであると考える。

講師:橋本 宏氏 元大使 外務官僚

略歴:1964年に一橋大学法学部卒業後、外務省入省。在モスクワ、ロンドン、ワシントンなどの日本大使館などの勤務を経て,1998年から駐シンガポール大使、橋本内閣で創設された沖縄大使を務め、駐オーストリア大使などを歴任された。現在は文筆・講演活動を通じて外交問題に携わる傍ら、2024年3月には「元外交官が大学生に教えるロシアとウクライナ問題―賢い文化の活用」を執筆されている。

【スピーチと質疑応答】

今回のフォーラムでは、ロシアウクライナ戦争を念頭に、ロシアに対する世界各国や日本としての動きを講演で伺い、その後の討論会で議論することができた。はじめの橋本様の講演でロシアとウクライナの歴史認識の違いを聞いたが、キエフ大公国の後継を称するロシア連邦と、ソ連崩壊後に700年ごしに独立を果たしたというウクライナの歴史認識の違いはやはり大きいものなのだと改めて感じた。より現実の戦闘に関連した話として、国連やNATOの効果や改善点などの話も伺うことができ、まず国連安保理の機能不全に対する対処の仕方に関してはあまり存在せず、総会決議で対応するのが現実的であること、また国連は集団安全保障体制で、集団内の国家による他国への武力攻撃を抑止し、制裁を加えるものである一方、NATOは集団的自衛権を互いに行使する国家の集合体であり、集団外の国家による集団内の国家への武力攻撃に対し制裁を加えるものであるため、NATOは国連の代わりにはなり得ないということを学んだ。日本のこれからの立ち位置として、中堅国家を目指すべき、具体的にはロシアとウクライナが戦争をしている間は、ウクライナの街の復旧へ、和平成立後はウクライナの復旧へと支援をすることで立場を作っていくべきだということは非常に興味深かった。それと同時に市民一人ひとりによるアプローチも可能だということも仰っており、私自身にできることとしてはまず戦争報道を追いかけること、それをもとに日本としてはどのような立場を取る必要があるかを考えると同時に、寄付などをしていくことかと考えた。

【全体討論】

講演後の討論では、「長引く戦争状況におけるダメージを考え、諸外国は軍事的サポートをやめるべきか、あるいは将来を見据え、今日のダメージよりも未来の平和を考えてサポートを続けるべきか」というテーマで討論を行い、私の意見としては、和平を結び、平和を取り戻すことが大事であって、これまで2年半のロシアウクライナ戦争でウクライナ側に民主主義国家が支援を続けてきて、和平を結べる状況になっていないということを鑑みると、ウクライナへの支援を中断して、多少ロシアに有利な形となっても和平を結び平和を取り戻すことが良いという意見だった。反対側の意見としては領土保全の観点で侵略をおこなっているロシアを許す前例を作ってしまうと、一時的に平和が訪れたとしても長期の視点で考えた場合に侵略国家を利する形になるため良くない、という意見が多く見られた。個人的に、支援を続けるべきだという人の中に、ロシアによる虐殺や子供の連れ去りという非人道的側面に対して反対の意を表すために、ウクライナへの支援を続けるべきだという意見は少なく、人権保護というよりは領土保全という観点からの意見が圧倒的に多かったのは、印象的だった。 最後になりましたが、スピーカーの橋本宏様、貴重なご講演ありがとうございました。

自治医科大学医学部2年  藤本脩太郎

講師:Mr. Hunter McDonald

略歴:ハーバード大学で東アジア研究を専攻し、経済学を副専攻として学士号(AB)を取得。その後、コロンビア大学で経営学修士(MBA)および国際関係学修士(MIA)を取得。 2011年の東日本大震災と福島第一原発事故の影響を東京で投資銀行アナリストとして経験したことから、世界のエネルギー、持続可能性、地政学に関心を抱き、2014年以降はこれらの分野に専門的に取り組む。 現在は、再生可能エネルギーの開発を手がける日本発・グローバル展開の企業である自然電力株式会社(Shizen Energy Inc.)にて、韓国担当カントリーマネージャー兼投資スペシャリストを務めている。

【スピーチと質疑応答】

今回のフォーラムでは、エネルギー資源が乏しく、再生可能エネルギー技術に必要なレアメタルも外国に依存する日本がどのようなエネルギー政策を選ぶべきか、エネルギー産業を取り巻く産業を講演で伺ったあとに議論した。講演では、日本が安全保障、持続可能性、経済性のジレンマならぬ「トリレンマ」を抱えており、エネルギー分野における最適な政策選択の難しさを学ぶことができた。 他にも、講師のMcDonald氏からエネルギーに関する興味深い話を聞くことができた。例えば、GAFAの持つデータセンターの電力需要増加などに伴い、今や世界の電力需要の2〜4%を使用していること、日本は米国に比べて政権交代が送りにくい分エネルギー問題に一貫した取り組みが行いやすいという指摘は、エネルギーをビジネスや政治といった他分野へと繋ぐ、興味深い視点だった。

【全体討論】

すべてのエネルギー資源は完璧ではない。McDonald氏が各エネルギー資源の強みと弱みを説明した後、「日本のエネルギー政策は何を重視するべきか?」というテーマで議論した。話題は原子力発電や日本が高いポテンシャルを持つ地熱発電、そして最先端技術である核融合発電にも及び、環境や住民への負荷、エネルギーの持つ政治的なパワーなど多くの要素を考えながらの討論が行われた。

【全体私感】

私は日本が抱える「トリレンマ」の中でも「安全保障」を、他の経済性や持続可能性と比べて重要な分野であると考えた。なぜなら、日本は豊富なエネルギー資源や電力貯蔵を有していないからである。カーボンニュートラル達成の目標年は2050年であり、エネルギー技術を革新するための時間はまだあるといえる。しかし、この不安定な時代において、国家の生命線の1つであるエネルギー資源は他国への優位性を得るための容易な標的となり得る。実際の例として、ロシアからドイツへの液化天然ガス(LNG)の輸出停止が挙げられる。確かに、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行は必要であるが、それは再生可能エネルギーの技術に必要な希少金属において、特定の国への依存リスクを高める。このリスクを軽減するため、日本は再生可能エネルギーの割合を急速ではなく段階的に増加させるべきであると考えた。また、新しい技術が開発され、他国の天然資源への依存が少ない状況になるまでは、原子力発電を一時的な電源として再稼働させるほうが日本にとって良いのではないかという意見が全体討論では多く聞かれ、私もそれに賛成を示した。例えば、現在日本はペロブスカイト太陽電池という新しいタイプの太陽電池を開発している。これは日本がその主原料の1つであるヨウ素を生産できるため、比較的資源独立性の高い電力源になりうる。しかし、実用化までまだ年月がかかるという話も聞くため、それまでの間という条件付きで、原子力発電を一時的に使うという案も考えられるだろう。一方、当然ながら原発のリスクや核廃棄物処理問題などの現実的な問題を参加者から提示された。国際情勢と技術の進歩の両面を見ながら、今後もこの問題について考えていきたいと、改めて感じさせられた。 最後になりましたが、スピーカーのHunter McDonald様、貴重なご講演をありがとうございました。

東北大学2年  阿彦鼓太郎

講師:遠藤彰医学博士

略歴:2017年東京大学医学部卒業後、2021年London School of Hygiene & Tropical Medicineにて博士号取得。 同年長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科特任研究員、翌年客員教授に。同年2022年シンガポール国立大学 Saw Swee Hock School of Public Health准教授となって現代に至る。 遠藤氏の専門領域は感染症疫学と数理モデル。研究テーマには「数理モデルを用いた新興・再興感染症の疫学研究」がある。その功績が買われ、令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞を日本の100人の一人として受賞している。  KIPでは2012年に入会、数年間委員長を務めアメリカ研修や各地域研修にも参加。

コロナ禍を振り返って、日本は感染者数や死亡者数を抑え込むという点において比較的上手くいっていた。しかし、再びパンデミックが訪れた際、それもコロナより死亡リスクのずっと高い感染症が流行したとしたら、果たして同様の感染症対応で対処できるのだろうか。 このような問題意識に基づき、「死亡リスクの高い感染症が流行した際、人々の行動を制限する法制度を整備する必要はあるか?」というテーマで議論を行った。

【スピーチと質疑応答】

一昔前、感染症はもはや発展途上国だけの問題という見方が存在したが、MERSや新型コロナ、エボラ出血熱など、感染症は人類の脅威として常に存在し続けている。公衆衛生問題の中でも「パンデミック」は複数の難しい特性を備えている。特に、ある人のリスクはその周囲の人のリスクでもあるという「リスクの相互依存性」により、人口レベルでの行動制限が要請されることも多い。数理モデルを用いる際も、これらの特性に注意する必要がある。会場質問では、人の行動というパラメーターの不確実性への懸念や、政府のコロナ対応において経済学者の観点は取り入れられたのか、休校の効果はどうだったのかなど、活発な質疑応答が展開された。 政府の新型コロナ対策では、初めて数理モデルが大いに活用された。今回、日本は他国と比較して感染者数や死亡者数を圧倒的に少なく抑えられたものの、次のパンデミック対応でも上手くいく保障はない。また、政治家は十分責任を負わず、専門家が身代わりとして前面に押し出されたという反省点も存在する。最後は、人権の観点から見たパンデミックについて。コロナ禍では世界各地で実際に、移動の自由やプライバシー、人種差別の問題が発生した。また、感染拡大のコントロールは民主主義より権威主義の方が相性が良いというジレンマについてもお話しいただいた。

【グループ討論と全体討論】

「死亡リスクの高い感染症が流行した際、人々の行動を制限する法制度を整備する必要はあるか?」というテーマについて、賛成派からは、迅速なら対応のためには平時のうちに法整備が不可欠である、責任の所在を明確化すべき、行動の自由の制限よりも感染拡大で命が奪われることの方が重大であるなどの意見が挙げられた。一方で反対派からは、厳密な定義の難しさから画一的法整備は難しい、条件付きの法整備では結局実効性が乏しくなってしまうのではないかなどの意見が挙がった。全体としては討論開始前後ともに、賛成派の方が多いという結果になった。

【全体私感】

感染症数理モデルを用いて政府のコロナ対策にも貢献された遠藤氏から、貴重なお話を聞くことができた。「パンデミックは、どう対処するにしても『負』であることには変わりない。大切なのは、社会で『負』をどう配分すべきかだ。」遠藤氏が総評として述べていたこの言葉が心に刺さった。今回得た学びを基に、再び来るであろうパンデミック対応について、これからも考え続けていきたい。

 

上智大学文学部2年  西村 菜乃

講師:千葉敏雄医学博士

略歴:1975年東北大学医学部卒、医学博士。 専門分野は小児外科。 1986年米国ピッツバーグ大学小児外科講師を経て、1997年米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)胎児治療センター客員助教授に就任。 1998年同センター客員教授、上席研究員となる。 2001年には日本に帰国し、国立成育医療研究センター特殊診療部部長に就任する。2005年東京大学情報理工学系研究科教授。また、アメリカで胎児の内視鏡手術を執刀していたことから、2006年NHK技術研究所とともに8K内視鏡の開発に着手。2014年には8K内視鏡の手術への応用にヒトでは世界で初めて成功する。 その後2012年に、一般社団法人メディカル・イノベーション・コンソーシアム(略称:MIC)を設立、理事長に就任する。2015年日本大学総合科学研究所教授。2016年には、8K硬性内視鏡の実用化に向けカイロス株式会社を設立し代表取締役会長に就任。2020年2月には世界で初めて8K内視鏡を実用化・製品化したことなど、これまでの取り組みが評価され、アルベルト・シュバイツァー賞の最高賞(および医学賞)を受賞する。

 

千葉敏雄氏から、医療の困難を解決する技術開発や遠隔医療についてお話を伺い、医療の地域 格差を縮小するための遠隔医療のあり方について議論した。

【スピーチと質疑応答】

医療における困難とそれを解決する技術開発についてお話を頂いた。既存の医療は発展してきてはいるものの、困難が多く残っていることを再認識した。それを解決するための手段の一つとして技術開発があり、8K内視鏡が医療の困難の一部を解決しつつあるというお話を伺った。遠隔診療においても、医師と患者の間で技術的な壁や心理的な壁があり、それを解決する技術の必要性を学んだ。質疑応答の際には、オンライン診療が受け入れられていくためには、簡単なところから始めて有用性を示していかなければならないことや、医療における技術開発では医師、技術者、ビジネスパーソンの三者間での協力が不可欠であることを指摘された。

【グループ討論と全体討論】

「医療の地域格差を縮小するために、遠隔医療はどうあるべきか。また、遠隔で診療することによる問題はどのように解決されるべきか」という議題について議論を行った。遠隔で診療を受けることができるメリットとして、身体的に移動が困難な方や移動に不便な地域に住んでいる方が気軽に診療を受けられる点や距離があっても専門的な診療を受けられる点が挙げられ、専門性を持つ医師と地方の患者のマッチングシステムやオンラインでのデイケアが医療の地域格差を縮小するという意見が出た。また、デメリットとしては、オンラインでの心理的障壁やさまざまな医師の診療を受けることができるために、医師の間での情報共有の必要性も指摘された。情報共有を支える技術として、現在進められている薬剤情報のマイナンバーカードへの紐付けが有効だという意見が出たが、情報を国が管理することへの疑問も呈された。このように、遠隔診療のあり方について活発な議論が展開され、地域格差の縮小のための遠隔医療の形について具体的に考えることができ、医療の将来について新しい展望を得られる議論となった。

【全体私感】

今回のフォーラムでは医療技術や医療の地域格差について新しい知見を得られ、大変勉強になった。大学進学とともに便利で溢れる東京で暮らし始め、忘れがちになってしまっていたが、確かに医療の地域格差は存在している。医療の地域格差について私の経験以外の新しい観点から再認識する機会となり、大変良い機会をいただいたと思う。討論では、私は技術的な困難について注目してしまったが、医師と医師との情報共有やオンラインでの心理的な壁などコミュニケーションの課題についての意見が他の方から出ていて、興味深かった。技術開発には技術者だけでなく医師もビジネスパーソンも必要だというお話があったが、コミュニケーションの課題は実際に診断を行う医師の意見なしでは解決することが困難な課題の一つだと思う。近年では技術開発が推進され、多くの患者さんが救われるようになってきているが、千葉氏は電子カルテや診断におけるAI利用など機械の利用が常識となってきた中で、医師の本質がコミュニケーションに移っているとおっしゃっていた。今回の討論ではシステムによる医師同士や医師と患者とのつながりに焦点が当てられていたが、実際の診療に参加する医師と患者の態度も変化が必要なのだと感じた。技術開発により変わりゆく社会全体に関わるお話で、技術との共存が社会にもたらす影響とその難しさについて考えさせられた。

東京大学教養学部2年  荒田 尚哉

講師:油井英孝氏 日本株運用のポートフォリオマネージャー

略歴:KIPの第一期生でもある油井氏は、大学卒業後の2009年外資系投資銀行モルガンスタンレーに入社。その4年後に香港に渡りヘッジファンド勤務後、2015年にCanada Pension Plan Investment Board(カナダ年金基金)に入社。現在は香港にてActive Equitiesの日本株運用のポートフォリオマネージャーとして勤務。 KIPには海外で働きたいという夢を持って2008‐2009年に活動参加。

油井さんに世界の中での日本と中国の位置付け、そして、今後の社会状況を踏まえたキャリアプラ ンの考え方を教えていただいた。グローバルな視点を持った上で、悩み続けながらも人生の道筋を 決めていくためのヒントが得られた。

【スピーチと質疑応答】

まず、油井さんが大学を卒業された2009年当時に考えていた、日本と海外の現状分析と予想、そしてキャリアプランを立てた時の戦略をプレゼンしていただいた。「何に人生をかけるか」が戦略の軸となる。これを決めると人生のテーマも努力量も決まり、それで人生の半分が決まってしまう。だからこそ、戦略的に考え、安易に決定せず、諦めずに粘り強く努力することが重要だ。そう力説されていた。 次いで、香港で働く中で感じた中国と香港の特徴、そしてにわかに注目されている日本の強みについて議論を深めた。質疑応答中、外資系企業誘致による香港内での変化や、市民と大陸との関係について、イギリス統治下から遡って解説していただき、香港経済への理解が深まった。私は世界の経済状況に関して人並みの知識を持っているつもりだったが、非常にレベルの高い議論に圧倒された。

【全体討論】

2040年の社会状況を予想し、自分の進路はどうなっているか。参加者一人ひとりがフレームワークを手短に話した。メディア、コンテンツ業、農業、ロボットのデザイン、など各々の専門に基づいた興味関心や、空からの配達とスマート家電による未来の生活について話される方がいた。AIを使えるのは当たり前であり、さらなる専門性が求められる時代が来ることや、システム導入時の意思決定者と現場での違いなど新技術がもたらす変化と困難について具体的に語られる方もいた。 参加者のコメントを受け、油井さんからのアドバイスをいただき質疑応答をした。専門性を高める目標の「山」を複数持つべきか一つに絞るべきか、山を見誤った場合にはどうしたら良いか、などの質問が挙がった。

【全体私感】

KIPの現在の現役生が、KIP一期生の油井さんと同じ年代になるのは2040年であり、その時の社会とそれまでのキャリアが今回の一つのテーマだった。「次のロールモデルになってください」という司会の言葉に、世代を超えたKIPの深みを感じられた。参加者全員が、自分のキャリアや関心分野と注目している社会の動向について話されていたため、一参加者として非常に興味深かった。仕事で全力を投じながらも、自分のキャリアプランについて俯瞰して考えなければいけないがどうバランスを取っているのか、と私が質問した際の油井さんの答えが印象的だった。「意見変更は毎日のように行っており、意見変更を恐れずそう安易に結論を決めないでほしい。」進路の岐路に立ちながらも悩みが残る私にとって新鮮だった。 今回のフォーラムを通じて、油井さんの魅力的な人柄がうかがえた。「プロフェッショナルの山、家族の山、趣味の山」の3つの目標があり、「それぞれで学びがあり、互いに生きる」と話されていた。仕事で一流であるにも関わらず仕事以外でも向上心が強い油井さんの姿に感銘を受けた。また、グローバルに必要とされる人材の条件として、個としての専門性に加え、「日本人として愛される」ことを挙げていた。現在の日本の社会状況について話せることが前提の上で、面白い話ができ、一緒に働いていて前向きになれる人だと良い、と言う。最後には一人の人間としての魅力が評価される点が個人的にとても納得がいった。

東京大学理学系研究科修士2年  加藤辰明

講師:四方敬之内閣広報官 ※役職は講演(2024/5/25)当時

略歴:京都大学法学部卒業後、昭和61年4月に外務省入省以来、北米局北米第二課長、国際法局経済条約課長、内閣副広報官、在英国日本国大使館政務公使、大臣官房人事課長、在中華人民共和国日本国大使館在勤特命全権公使、在アメリカ合衆国日本国大使館公使、経済局長を歴任された後に、2021年10月から2024年7月まで、内閣広報官として活躍。 ハーバード大学ケネディ行政大学院修士(MPP)。Public Affairs Asiaの「The Gold Standard Award for Political Communications 2011」受賞。

【スピーチと質疑応答】

スピーカーから日本の外交安全保障政策について、インド太平洋地域、特にASEAN加盟国との関わりを中心に具体的な取り組み状況をお話をいただいた。また、日米同盟の深化や日米間の経済、学術面での連携の強化についてもお話いただいた。

【全体討論】

「日本が『自由で開かれたインド太平洋政策』を実現するために、どのようなプロジェクトを総理大臣に提案するか」というテーマのもと討論を行なった。 日本で働く外国人労働者を大幅に増やすことに好意的でない意見があることから、日本から外国に日本人を派遣し、共同研究など技術面で交流をするといった意見や、インド太平洋地域、東アジア地域でのAI活用を促進するための枠組みやルールメイキングを主導する、気候変動や公衆衛生など日本が競争力のある分野での互恵的な技術提供と言った意見が出た。 AIに関しては、サイバーセキュリティなど安全保障にも関わってくる分野であり、機密情報の取り扱いを不安視する声や日本のデジタル分野の技術に優位性があるのか、海外派遣については日本国内で人口減少が問題になっているがさらに海外に流出していいのかといった疑問が提起された。 それに対し、セキュリティークリアランスのように情報を扱える人を絞ることや、日本人の移民に対する意識を変えることが、外国人労働者の円滑な受け入れに役立つのではといった意見が飛び交った。 日本人の「移民」という言葉への抵抗感に対する問題意識も生まれ、活発な議論になった。

【全体私感】

今回のフォーラムを通して、今まで個々のニュースなど断片的に情報を得ていた日本の外交安全保障政策に関して幅広い知見を得られ大変勉強になった。 討論では、私は海外への技術協力の拡大などすでに行われている取り組みをアイデアとして考えていたが、他の人の新規性のある意見を聞き、もっと柔軟に考える必要性を感じた。今回の討論は賛成か反対かのような選択肢のあるテーマでなかったため、それぞれの関心分野の知識に基づいた幅広い意見が提示され、興味深く思った。末筆ながらお忙しい中貴重なお話を頂いたスピーカーに改めて感謝したい。

武蔵野美術大学造形学部1年 松本楓

講師:東京大学農学部4年 毛防子璃奈氏

略歴:毛防子璃奈氏、東京大学農学部水圏生物科学専修4年。2021年東大理科二類に入学。2024年より、日本大学生物資源科学部の岸田拓士教授のもとでイルカの古代ゲノム、集団遺伝学に関係する研究を開始。鯨の特性を生かした海底調査の可能性を個人的にも研究を行なっている。

毛防子氏から、鯨の生態や人間との関わりについてお話を伺い、その経済的利用の是非について議論した。

【スピーチと質疑応答】

鯨の生態という自然科学的な面と、その利用をめぐる社会科学的な側面の両方についてお話を伺 った。鯨が大きさや生息域などが非常に多様化した生物であることを再認識した。その一方で「スー パーホエール論」として揶揄されるような、鯨の多様な特徴を一絡げにしてしまう思想が蔓延してい ることを知った。その後、捕鯨に関してIWC(国際捕鯨委員会)で様々な議論がされてきたことを学ん だ。IWCでは「先住民生存」「商業」「調査」の三つの目的で捕鯨が大別されている。質疑応答の際 には、このような区分がある程度恣意的と言えること、そしてIWCにおいて科学委員会の提出した科 学的な知見(鯨の)もうまく適用されてこなかったことについても知見を得た。

【全体討論】

「国際的批判下でも日本は既存の方法で商業目的の捕鯨を続けるべきか」という議題について議 論を行った。はじめには、日本における商業的な捕鯨を一産業として捉え、その経済性や成長のポテンシャルについての議論が重ねられた。商業捕鯨の継続に反対する意見としては産業として強いとは言えないこと、また捕鯨を続けることが調査研究に与える影響を懸念する声も挙げられた。一方で異なる切り口からは、批判が仮に趨勢だとしても文化を一方的に否定し、地域住民に心理的なダメージを負わせるような指摘に従う道理はないとする意見もあった。また、捕鯨を一産業として見た場合、従事者がいる以上は簡単な理由で廃止する決断を取ることはできないとの意見もあった。「国際的批判下」といっても一部の国家の批判がほとんどであり、日本との重大な外交マターにはなりにくいとの考えから現存の捕鯨を廃止するほどの理由はないという意見も挙がった。このように多面的に議論が展開され、それぞれの長短を比較しながら落としどころを探る議論が重ねられた結果として商業捕鯨の持続を支持する意見が最終的には多数であった。

【全体私感】

今回のフォーラムのタイトルには「日本は野蛮な国か」という極めてセンセーショナルなフレーズが使われている。捕鯨を続ける日本を「野蛮」と断ずるのは、捕鯨を悪と見る人々の感情である。彼らの思想の根本にあるのが「鯨>他の生物」とする自然観にせよ、鯨を地球のコモンズと見る価値観にせよ、結果として彼らの感情によって起こされる行動が捕鯨を続ける人々への加害性を帯び、結果として感情の応酬を生んでいる。 討論における議論のように、捕鯨を続けることによる実益的な議論と、加害に対する感情論の部分が混同しやすいのがこの問題の厄介なところである。それらの議論を混同せず、冷静に議論を重ねることが問題解決への第一歩だと感じた。 また、より抽象的な部分でも学びは大きかった。捕鯨問題の根本には、様々な「多様化の無視」とい う過ちがあると考えられる。それは鯨の多様性を無視した「スーパーホエール」的思考や、捕鯨の目 的を「生存」か「商業」に単純化してしまう考えなどである。一方で日本人の我々も商業捕鯨の意義 について、「文化だから」と拘泥するのではなく商業捕鯨をすることによる研究への影響など、幅広 い視点を持たなければならない。また、捕鯨を産業として捉えた際にはたとえ少数でも従事者がいる以上は簡単に廃止する、などの決断はするべきではない。このように、問題に関わる多様なステークホルダーの持つ重層的な多様性を考慮することの難しさと重要さについて考えさせられた。

東京大学教養学部2年 長澤侑吾